山竹伸二 こころの病に挑んだ知の巨人 (2018) 

2018.8.1

 図書館の蔵書検索で、河合隼雄で検索して、この本を見つけ、借りてきました。

 山竹さんの本は、「本当の自分」の現象学 (2006) と不安時代を生きる哲学 (2012)を持っていて、

いつか読もうとは思っていましたが、「本当の自分」など探しても碌なことはないと、どこかで思っていて、

積んどく状態でした。

 この世に生れて、何かしようという元気があるなら、やりたいことに前進した方が、いいに決まっていて、

本当の自分を捜すことはしない方がいいのです。自分がいることは確かなのですから。

 しかし、一旦、不安の虫に襲われてしまうと、物事がうまくいかないようになります。

人間は、けっこう、脆いものかもしれません。 

 ひらがなの ぬ め ね れ などをじっと眺めていると、何故、この文字が、ぬ め ね れ なのか

分からなってしまうことを経験したことが何回かあります。

それ以来、文字を眺め続けることは、さけるようにしています。

 そう、物事をあまりに見詰めすぎると、何かが、壊れてしまう危険があります。

 

 山竹さんの、この新しい本は、こころの病に挑んだ知の巨人、5人を取り上げています。

 森田正馬、土居健郎、河合隼雄、木村敏、中井久夫 の5人です。

 河合隼雄は、心理学者ですが、他の4人は、精神科医です。

 心の病は、基本的に、脳の働きが壊れた状態なので、医学的なアプローチで、投薬によって直すことができますが、

まだ、すべての病気を治すことはできず、臨床心理学的なアプローチで、心理療法が役立つこともあります。

 

 体の病気に対しても、西洋医学や東洋医学がありますが、一方で、食事療法や運動療法などによって、

病気をなおしたり、病気にならない体を作ったりすることもできます。

 

 心の病、心の健康に関しても、同じような体制ができあがることが大切だと思っています。

 

 山竹さんの言葉を少し引用します。序章の19頁から22頁です。

 ところで、精神医療の現場において薬物療法が主流になったのは、やはり薬の開発が急速に進歩したからだ。

それはまた、精神疾患の原因を脳や素質に還元する生物学的精神医学の台頭を促してきた。

これは心理学的要因を重視しない立場であり、症状に対して、薬を与える、というきわめて単純化した治療になりやすい。

どの薬を処方すべきなのかも、DSM (現在はDSM-V) によって症状のみで診断しやすくなっているため、かつてほど混乱することも少ないだろう。

 これは日本だけの話ではない。欧米先進諸国のほとんどがそのような状況である。

特にアメリカは生物学的精神医学の影響力が強く、かつては主流だった精神分析、力動精神医学は、かなり下火となっている。

いまや精神科医が信用している心理療法は認知行動療法ぐらいなものであり、それも少数派といったところだろう。

 一方、医学ではなく、心理学出身の心理臨床家も増えており、彼らは様々な心理療法を駆使しながら、多様な患者、クライエントの相談に応じている。

その中心となっているのは臨床心理士と呼ばれる人々であり、学校におけるスクールカウンセラーをはじめ、病院その他の施設において活動を続けている。

薬物の処方は医師にしか認められていないため、彼らの仕事は心理検査、心理療法が中心となるが、

こうした心理の専門職が一定の地位を得るまでには、長い道のりがあったのだ。

 日本に心理臨床に関する専門職の必要性が議論されるようになったのは、およそ半世紀前にさかのぼる。

1964年に設立された日本臨床心理学会がその出発点と言えるだろう。

 しかし1969年にはじまった反精神医学の流行により、医学系学会での改革の動きがはじまり、

日本臨床心理学会でも心理テストや国家資格への疑問が表面化することになった。

簡単に言うと、心理テストやカウンセリングは個人を抑圧する、個性を殺し、社会制度への服従を強いる、というような考え方が強くなったのだ。

このため、1971年、学界の理事全員が辞任し、「学会改革委員会」が設立されることになったのだが、この改革に不満を抱いた会員が大量に脱会した。

(中略)

 一方、心理臨床の理論的な進歩と会員の資質向上を目的として、1982年に日本心理臨床学会が設立され、現在、多くの会員を抱える大規模な学会となっている。

そしてこの学会を基盤に、1988年、臨床心理士の資格制度ができ、資格認定を行う日本臨床心理士会も設立。

心理カウンセラー、心理セラピストには民間の資格が多数存在するが、これ以降、臨床心理士は高度な専門知識を有する専門職として高い信頼を得ることになり、

クライエントの精神疾患や心理的問題・不適応行動などの援助や予防、研究に従事することになった。

 この一連の動きに多大な貢献をなしたのが、臨床心理学者の河合隼雄である。

(中略)

 もっとも、欧米諸国における心理士に比べると、日本の臨床心理士は国家資格ではなく、権限はかなり弱い。

文部科学省の任用規程により全国のスクールカウンセラーの資格要件とされているが、病院などで働く機会は少ないのが現状だ。

このことは、臨床心理士が精神科医と連携し、協力体制で治療を進めるという体制が未成熟であることを意味する。

 近年、日本でもようやく臨床心理の専門職が国家資格となり、平成30年には初の「公認心理士」の国家試験が行われる予定なので、よりよい連携と協力体制ができることを期待したい。

 

 とても、わかりやすく解説されていると思いますので、興味のあるかたは、是非、読んで下さい。

公認心理士が誕生し、従来の臨床心理士と共存して、心理療法に大きな前進が得られることを、期待したいと思います。

 

 

 

 

 

    

ホームページアドレス: http://www.geocities.jp/think_leisurely/

 


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