山口敬之 総理 (2016,2017) |
2021.09.14
山口敬之(のりゆき)さんは、TBSワシントン支局長だったとき、週刊文春2015年4月2日号に、
「歴史的スクープ 韓国軍にベトナム人慰安婦がいた!:米機密公文書が暴く朴槿恵の"急所"」
という記事を発表し、TBSから出勤停止処分を受けて異動となり、
2016年5月にTBSを退社しましたが、そのすぐ後の6月に、この本を出版しました。
この本を出版したいきさつや、出版に対する政界からの反応については、
現代ビジネスの以下のインタビュー記事に詳しく語られています。
山口敬之氏「だから私はTBSを退社し、この一冊を著した」〜永田町を震撼させたエース記者の回想
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/49164?imp=0
安倍総理の日常の政治活動と政治姿勢について、非常に細かく描写したこの本は、
日本で政治に関与している人達の間に、驚きをもって迎えられました。
この本は、翌年、文庫となりましたが、文庫本には、巻末に解説が付きます。
この本の解説者は、「週刊文春」編集長の新谷学さんで、解説のタイトルは、
「人たらし」の笑顔と凄味 です。
まず、2つのエピソードが紹介されますが、最初のエピソードは、2006年に、新谷さんが、
月刊「文春」の政治担当デスクだったときに、第一次安倍政権の安倍首相の突然の辞任の理由について、
インタビューし、手記にまとめたスクープ記事を、年明けの1月10日発売の「文春」に発表しようとした矢先、
年の暮れに、TBSの山口さんのインタビューで、安倍さんが、辞任に至る葛藤について素直に語ってしまい、
新谷さんは、悔しかったなんてもんじゃない思いをして、「山口敬之」は、忘れられない名前となったそうです。
2つ目のエピソードは、冒頭に紹介した週刊文春2015年春のスクープ記事で、
この時、新谷さんは「週刊文春」の編集長でした。少し引用します。
「山口さんはTBSの社員だから、会社に許可なく週刊文春に記事を書いたらまずいでしょう。
匿名にしますか?」
山口さんはこう答えた。
「会社にはちゃんと届け出は出します。ただし許可が出るかはわかりません。それでも私は実名で書きます。
このテーマを自分の名前で世に問うことができなければ、ジャーナリストをやっている意味がありません」
彼が執筆してくれた記事は、ジャーナリストとしての矜持を存分に示すスクープだった。
だが、記事が掲載されたことで、山口さんはTBSから出勤停止処分を受け、
報道局からローカル営業部という部署に異動させられた。
私は記事の打ち上げを兼ねた会食の席で彼に詫びた。
山口さんは「記事を発表する場所を提供してくれたことにむしろ感謝しています」と答えた。
その笑顔は屈託がなく、爽(さわ)やかだった。私は申し訳ないと思いつつ、
その笑顔に数数の政治家の懐に飛び込む「人たらし」の一端を見る思いだった。
そしてTBS退社後に山口さんが最初に書いた本が『総理』である。一気に読んだ。
正直な感想は「よくここまで書いたな」だった。
第二次安倍政権の真髄は、安倍総理、麻生太郎副総理、菅官房長官の絶妙なトライアングルにある。
その3人の極めてセンシティブな関係をこれ以上ないほど、生々しく描いているのだ。
(中略)
ジャーナリストの山口さんのことを「御用記者だ」と批判する人物もいる。
それは私に言わせれば、まったくナンセンスだ。
政治記者にとって、総理大臣ほど強力なネタ元はいない。
ありとあらゆる国家機密が彼のもとに集まってくる。食い込む努力をするのは当然のことだ。
会食の機会があれば進んで参加すべきだと思う。そうした努力もせずに、
いわば安全地帯から、「総理と会食して権力に取り込まれている」などと罵るのは愚の骨頂だ。
問題なのは、政治家に食い込み、仲良くなることが目的化してしまった記者だ。
癒着した結果、書くべき事実をつかんでも、政治家に気兼ねして書けなくなってしまう。
この文章は、「あとがきにかえて」にある山口さんの以下の言葉に呼応しているように思います。
243頁
私は26年にわたる記者人生を通じて多くの政治家と深く付き合ってきた。
自民党のみならず、民進党やほかの野党に所属する何人かの政治家とも同様の付き合いがある。
そして彼らと政局を語り合ったり、重要政策の立案段階で意見交換したりするなかで、
時に政局の重大局面で私自身が一定の役割を果たすことすらある。
こうした政治記者の活動に対して「取材対象に近すぎる」と批判する声があることもよく知っている。
しかし、本編で繰り返し言及したように、政治のど真ん中に突っ込まなければ、
権力の中枢で何が起きているか見えないのも事実である。
他方、権力の中枢で目撃したものを公表せずに闇に葬るなら、それはジャーナリズムではない。
(中略) スイカを割って食べた顛末を他人に伝えて初めて、その一連の作業が
ジャーナリズムというジャンルに属するのである。
244頁
一方で、私は親しい政治家を称揚するために事実を曲げたり捏造したりしたことは一度もない。
それはジャーナリストの仕事ではないからだ。
そして特定の政治家を根拠なく誹謗するのも、ジャーナリズムに属する作業ではない。
取材現場は誘惑に満ちている。
提灯記事を喜ぶ政治家に食い込むために、一線を越えてしまう記者もいないとはいえない。
あるいは、自らが理想とする社会状況に誘導するために、
敵対する政策や政治家を根拠なく一方的に誹謗するキャスターも散見される。
こうしたジャーナリズムの一線を越えてしまいそうな局面で、
本当のジャーナリストが自らの支えとするのは「事実に殉じる」という内なる覚悟だ。
だからこそ記者という仕事には矜持が求められる。
今、丁度、日本は、自民党の総裁選挙の最中です。
第二次安倍政権は、安倍内閣を終わらせようとするあらゆる妨害に耐えて、長期政権になりましたが、
2020年9月に、安倍さんの持病のため、再び辞任という形で、終了してしまいました。
あとを継いだ、菅政権は、コロナ禍への必死の対処にもかかわらず、首相の国民へのアピール力不足のせいか、
国民の支持を失い、短命の政権となってしまいました。
高市早苗さんの総裁選参戦により、、今、政策論議が庶民の間でも盛んに起きています。
最近の中国の乱暴な振る舞いのため、外交や国防問題にも、庶民の関心は向かっています。
本書が取り扱っている、「消費税をめぐる攻防」や「安倍外交」「新宰相論」などを、
興味深く読みながら、毎日放送される総裁選ニュースを楽しんでいます。
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