冨田恭彦 観念論ってなに? オックスフォードより愛をこめて 

2017.5.22

 夏目漱石は、イギリス留学からの帰国後、東京大学で1905年と1906年の2年間、「文学評論」を講義し、1909年に出版されましたが、

その第一章のなかで、十八世紀の英国の哲学について、日本の知識人として、批判的な立場から、論説しています。

 漱石は、英文学や英文学史を評論するにあたって、英文学に影響を与える英国社会を外観する目的で、英国社会に影響を与えているであろう英国の哲学を勉強しました。

 そこで取り上げたのが、ロックと、バークレーと、ヒュームです

 デカルトが実在を認めた神、心、物に対して、ロックが、異論を唱え、バークレーが更に異論を唱え、ヒュームが更に異論を唱えたわけですが、どこが同じで、どこが異なって居て、どれが正しいのかを理解することは、かなり難しい問題です。

 漱石の時代から、100年以上たち、現在の日本で、彼等の哲学に対する研究がどれくらい進んでいるのかを調べようとして、文献を検索し、まず、この本を読んでみることにしました。

 冨田さんは、学生時代から、西洋近代の観念論的・独我論的な心の理解とどう対決するか、また、西洋の観念論は、東洋のはるか昔の「唯識思想」とも論理的に密接に関わるものであり、その意味でも十全に理解したいと思われたそうです。

 さて、この本は、バークリーの観念論について、その解説と反論を述べているのですが、最初に、観念論についてのわかりやすい説明がありますので、引用します。

 バークリーの生きた十八世紀前半においては、私たちの知覚の対象を『観念』と呼ぶことは、知識人の間では、稀なことではなくなっていました。

前世紀のロックが『観念』を外来語扱いしながら使用したのとは大違いです。

ですから、観念論を全面的に展開しようとした『人間の知識の諸原理についての論考』において、バークリーがいきなり『観念』という言葉を何の説明もなく使い始めるのも、無理のないことではありました。

その用法によれば、私たちが五感で知覚しているものは、すべて「心の中の観念」です。

ですから、それはもう、世界は観念だというのとほとんど紙一重です。

ただバークリーが『原理』で取り上げていますように、私たちが五感によって知覚しているのは観念ではあるが、それに似た物質が別にあるとか、あるいは、それとある点で似ている物質が別にあるとかいった考えが、当時優勢でした。

それですと、観念の向こうに、実在する物質世界があるわけですから、私たちが直接知覚している世界が観念の世界であるとしても、その立場は観念論ではなくて、実在する物質世界を認めるという意味で、『実在論』であるわけですよね。

ですから、バークリーは、私たちが知覚している観念とは別に物質の存在を肯定する立場に対して、これを観念と物の『二重存在』を認めるものとして、強力な批判を加えます。

(中略)

 でも、そもそもどうして、バークリーは物質を否定しようとするのでしょうか。

そこにはいくつかの理由があるのですが、その一つは、物質を肯定すれば、神が必要ではなくなるという危惧にあります。

彼は宗教家として、無神論的物質肯定論者に負けるわけにはいかないのです。

そして、もう一つの大きな理由は、二重存在の肯定による、世界に関する知識の放棄にあります。

物質の世界を認めるとしても、私たちの知覚の直接的対象が観念である限り、物質に関する十全な知識は得られない。

こうした危惧が、彼の物質否定論のエネルギー源であったと考えられます。

(中略)

 バークリーのこうした世界の捉え方は、彼の「現象主義」、および彼のニュートン的絶対空間、絶対時間の否定とともに、現代科学のある重要な視点を先取りしたものとして、今日、再評価されようとしています。

こうしたバークリー再評価において重要な役割を果たした人の一人に、カール・ポッパー (1902-1994) がいます。

彼は、バークリーを、マッハやアイカシュタインの先駆者として捉えるとともに、物理学に関するバークリーの見解と、マッハやヘルツ、フィリップ・フランクやハイゼンベルクの見解との近さを、強調しています。

 

 なかなか、大変な世界ですね。心か物かという議論は、量子力学の、エネルギーと質量の関係とか、物質は、粒子かそれとも波動かというような問題とも関連していくようです。

 しかし、現代科学は、微細世界、極限世界での量子力学は認めるにしても、現実世界でのニュートン力学を否定するわけではないので、中庸の精神は、忘れてはいけないと、ここでは、強く感じます。

 

 さて、本書は、続く第三章 歪んだ論理 において、バークリーの観念論の批判に入るのですが、正直言って、まだ、その論理展開についていけていません。

 多分、バークリーが、どういう理屈で、物質の存在を否定したのか、というようなことの理解を積み上げていくことが必要なのだと思います。

 冨田さんのほかの本とか、ほかの方々による観念論の説明を勉強した後に。もどってきたいと思います。

 

         

ホームページアドレス: http://www.geocities.jp/think_leisurely/

 


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