サリバン ヘレン・ケラーはどう教育されたか (1973) 

2023.04.17

 本書の副題は、「サリバン先生の記録」です。本来は、これがタイトルで、「ヘレン・ケラーはどう教育されたか」という、いささかおどろおどろしいタイトルこそ、副題となるべきでしょう。

 しかし、この本は、教育の問題を取り上げていて、それをタイトルにしています。

 ヘレン・ケラーとサリバン先生は、教育の成功例として、未来永劫、語り継がれていくと思います。

教育を受けた側の、ヘレン・ケラーは、自伝を残しました。サリバン先生は、手紙で、実際の教育の様子を残しました。

前者は、児童書にもなり有名なのですが、後者の手紙は、それほど有名になっていないのが、残念です。

 映画、または戯曲の「奇跡の人」をみられた方は、あばれんぼうの小動物のようなヘレンに、サリバン先生が、

しつけを教え、次に言葉を教える様子が描かれていますが、その様子を表した元資料が、この手紙です。

 

 この本の最初に、遠山啓先生が、「はしがき」を寄せられています。

教育の難しさを語っておられる最初の部分を少し引用します。

 数年前の全国教育研究所連盟の調査によると、半数以上の子どもが学校の授業から取り残されているという。
それはたしかに驚くべきことであったが、もっと驚くべきことは、教育界がこり調査結果に少しも驚かなかったことである。

 もしこれが学校の給食のばあいだったらどうなっていただろうか。
ある日のある学校の給食で半数以上の子どもが消化不良を起こしたとしたら、たぶん大騒ぎになっていただろう。
ただちに調査が開始され、材料の仕入れ先から、料理人の健康状態まで徹底的に究明されるにちがいない。
ところが子どもの精神的給食ともいうべき授業で消化不良を起こしても誰一人驚かないのはなぜだるうか。

 それはいまの学校がすべての子どもを賢くするという目標を事実上放棄して、何%かの子どもが落語するのは当然であり、その落語する子どもを選び出してそれを切り捨てることを学校の任務とさえ考えているからである。
そのような現実のなかでもっとも冷たい待遇を受けているのはいうまでもなく障害児である。

 教育と給食を比較するのは、いささか無理があるとは思いますが、人の一生を左右する教育の問題は、

もっと真剣に取り組むべきとは、思います。

 「訳者あとがき」の訳者の言葉を、少し紹介します。

 ヘレン・ケラーの著書を読むと、精神の発達のある段階からつぎの段階への歩みが、多少とも思い出の甘い香りにつつつまれて、美化されている、という印象を受けます。

けれども、サリバン女史の手紙を読むと、ほんの小さなステップにも多くの試行錯誤があり、ジグザグがあったことがわかります。

とくに、ごく初期の頃には、とっくみあいのけんかをするような、赤裸々な魂のやりとりがあったことがわかって、私たちに迫ってきます。

感情が裸のまま飛び出る小さな野蛮人が、服従ということを知るようになる過程も、結果からみればたった一歩のようにみえますが、その一歩は困難な長い長い一歩でした。

(中略)

ここから私たちは、教師が生徒にいろいろな知識を、能率よく、なるべく無駄なく最短距離で教えるのではなく、生徒の精神全体とぶつかりあい、生徒が自発的に自分を伸ばしていくようにさせるのが教育の本質だという教訓をひきだすこともできるでしょう。

もちろん、このやりとりを通じて、教師自身が変化し、成長することも必要でしょう。

教育技術としいものは、最初からそういう方法があるのではなく、生徒との生きた関係から生まれてくるものだと思います。

 

 さて、「訳者あとがき」の最初に、「この本は、DELL社版『THE STORY OF MY LIFE』の中の、サリバン女史の手紙の部分を訳したものです。」とあります。

 Amazonで探しても、DELL社版はみつかりませんでしたが、インターネット上では、読むことができます。

THE
STORY OF MY LIFE

By HELEN KELLER

WITH
HER LETTERS (1887-1901)
AND
A SUPPLEMENTARY ACCOUNT
OF HER EDUCATION, INCLUDING
PASSAGES FROM THE REPORTS
AND LETTERS OF HER TEACHER,
ANNE MANSFIELD SULLIVAN

ttps://digital.library.upenn.edu/women/keller/life/life.html#III

この本の
PART III A SUPPLEMENTARY ACCOUNT OF HELEN KELLER'S LIFE AND EDUCATION

CHAPTER III EDUCATION

の中ほどから、サリバン先生の手紙の紹介が始まり、この部分が、本書で翻訳されました。

 英文は、公開されていますので、それに対訳をつけてみました。

サリバン女史の手紙 https://think0298.stars.ne.jp/letters_of_Miss_Sullivan.html

 翻訳は、まだ進行中です。

 

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