私はあなたが好きです

2015.2.18

 「私はあなたが好きです」における「は」と「が」の位置は、「象は鼻が長い」と同じですが、構造が少し違います。

 「鼻が長い(です)」の「鼻は」は、「長い(です)」の主語ですが、「あなたが好きです」の「あなたが」は「好きです」の目的語です。格助詞「が」は、目的語「あなた」を強調しています。

 英語でも、主語や目的語を強調したいときには、下記の構文があります。

鼻が長い。         It is nose that is long.
私は、あなたが好きです。  It is you that I love.

 格助詞「が」が目的語を強調する例として、「コーヒーが飲みたい(です)」が使われます。

私は、コーヒーを飲みたい。  I want to drink coffee.
私は、コーヒーが飲みたい。  It is coffee that I want to drink.

 しかし、「が」は、どんな目的語でも強調できるわけではありません。

○私は、テニスをします。   ○ I play tennis.
×私は、テニスがします。   ○ It is tennis that I play.

 「あなたが好きです。」と言ったとき、「あなたが」は、「あなたが、私の好きな人です。」という同等の文の主語の意味合いをもっているので、「が」が使えるのだと私は思うのですが、いまのところ、賛成してくれる人はいません。

2015.2.28

 最近、格助詞「が」は、目的語(対象)をあらわすのではなく、あくまで主格をあらわしているという教科書も増えてきています。

 加藤重弘さんの「日本語入門ハンドブック」(2006) の76頁に、「水が飲みたい」という例文おいて、「「水」は、「飲みたい」という形容述語からすれば、その属性を有する主体とみなされる」と説明されています。

 ところが、加藤重弘・吉田朋彦さんの「日本語を知るための51題」(2004)の50頁には、「太郎は酒が飲める」という例文において、可能をあらわす動詞「飲める」の場合は、「が」は動作の対象をあらわすと説明されています。

 さらに、51頁には、「太郎は甘いものが好きだ」という例文において、述語の「好きだ」には、感情の主体と、感情の対象(もしくは原因)が必要で、太郎が主体で、甘いものが対象であると説明されています。

 主語の「何々は」がついてしまうと、「何々が」は目的語(対象)を指すと解釈せざるを得ないようです。

 したがって、「私はあなたが好きです」という文章は、「私は、あなたが好きな人です。」という文章において、「人」を形容している「あなたが好きな」という形容詞節により、意味を成している文章と解釈できるのではないかと思います。

 名詞の「人」を加えた「あなたが好きな人」があまり例文として出来がよくないので、次の例文を考えてみました。

私は、コーヒーが飲みたい気分だ。
私は、コーヒーが飲みたい。

2015.7.16

 しばらく、時間がたちました。「あなたが好きです」の「が」は、主格を表すという私の意見の説明はまだ完成していませんが、いまも、意見は変わっていません。

 日本語は、複雑な形成過程を経ていて、文法的な説明が難しい事項がいくつかあります。今日は、別の観点から、少し掘り下げてみます。

 「好き」とか「嫌い」という単語の品詞を考えてみましょう。関連して、「好く」(すく)とか「嫌う」(きらう)という動詞があります。「行く」という動詞とあわせて、その活用をみてみましょう。

行かない   好かない    嫌わない
行きます   好きます    嫌います
行く     好く      嫌う
行け     好け      嫌え
行こう    好こう     嫌おう

 このなかで、「好きます」や「嫌います」は、ふつう使いません。「好く」という動詞は、「好きになる」という動作よりも、「好きでいる」という状態を表すことがおおいので、「好きです」という形容詞形が好んで使われるからでしょう。「好き」は、語幹で、基本形は、「好きな」という連体形がもちいられます。

 「好きな」という形容詞は、形容動詞と呼ばれていますが、形容詞か動詞がまぎらわしいので、外国人に日本語を教える場合は、ナ形容詞と読んでいます。「美しい」のような形容詞は、イ形容詞と呼びます。

 ところで、形容詞には、「美しい」のように属性を表す属性形容詞と、「さびしい」「退屈な」のように感情を表す感情形容詞がありますが、感情形容詞のなかに、対象をとるものと取らないものがあるという厄介なことが起こります。

私は、さびしい。            対象をとらない

私は、数学の授業が、退屈です。  対象をとる

 しかし、

数学の授業は退屈です。

という文も成立しますので、数学の授業は、主格であると考えることができます。

「私は、あなたが好きです「」の構文とは、本質的なところで、違うのかもしれません。

 前回、例にあげた「あなたが好きな人」は、あなたがその人を好きな場合と、あなたのことを好きな場合の二つの意味を持っています。なかなか手ごわいですね。

2015.7.19

 山口明穂さんの「国語の論理 古代語から近代語へ」(東京大学出版会、1989)の 85頁に面白い説明がありました。第二章 客語意識のなかで、「を」が他動詞の客語 (目的語) として使われるようになる意識の変遷を説明しているのですが、章の最後に以下の文章があります。

(ここから)

 現代語では、

母を恋しい
能力のある人を欲しい
やさしい人を好きだ
口うるさい人を嫌いだ

といったように、状態性の意味を表わし、それまでであればかからない語と意識された、動詞以外の語にかかる例も見られるようになっている。これは、下にくる語が、動詞という形式性の面で意識されるのでなく、その及ぶ対象があるからという、下の語の意味に意識の重点のおかれた結果のものであり、これもまた、一つの変化の方向と言うことがぶきるであろう。

(ここまで)

 やさしい人が好きだ ではなく やさしい人を好きだ という言い方も、言語の変化の変遷のなかにあったということは、面白い発見でした。

2015.8.13

 何々が何々だ という状態を表す文には、いろんな種類があるので、整理しておこう。

(1) 存在・所有   本がある。 私には、時間がある。

(2) 状態       私は、背が高い。私は、体が大きい。

(3) 必要       お金が必要です。お金がいる。時間が必要だ。

(4) 可能・能力   私は勉強ができる。私は、音楽がわかる。私は、ピアノが上手だ。

(5) 希望・感情   私は、ゴルフがしたい。私は、時間が欲しい。私は、あなたが好きだ。私は、父がこわい。

(6) 知覚       私には、遠くが見える。私には、かすかに聞こえる。

(7) 生理的感覚   眼がかゆい。胃が痛い。私はのどが渇いた。I am thirsty. 私は、おなかがすいた。I am hungry.

 

         

ホームページアドレス: http://www.geocities.co.jp/think_leisurely/


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