齋藤孝 読み上手 書き上手 (2008) 

2015.9.20

 齋藤孝さんの新書本を、何冊かもっています。最近、日本人が本を読まなくなってきた風潮を憂い、読書は大切ですよと訴えかけておられます。

 ちくまプリマー新書の「読み上手 書き上手」(2008)を例にとりあげて、その論調をまとめてみました。興味をもたれた方は、是非、原著を読んでください。

(ここから)

 「読む力」「書く力」が人生を左右する

 あなたにお聞きします。

 400字詰めの原稿用紙で5枚書けといわれたら、どう思いますか。来週までに本を5冊読めと言われたら?あなたは「いやだなあ」と気が重くなりますか?

(中略)

 私はふだん大学で学生を指導したり、セミナーや塾でビジネスマンや小学生を教えたりしていますが、みな本を速く、たくさん読みたいとか、文章がすらすら書けるようになりたいと言います。

「読み書き」に関して悩んでいる人がたくさんいるのです。

 そのわりには、世間では「読む力」や「書く力」が軽視されてきたように思います。

(中略)

 たとえば就職試験を考えてみましょう。就職試験の際にはエントリーシートというA4判一枚くらいの紙を提出させる企業がほとんどです。

(中略)

 言い換えれば、個人の能力や資質は、書いた文章を通して相当シビアに判定されてしまうということです。

かりに自分で書いた文章を自分がとても気に入っていても、相手から見るとそれほどでもなく、二次試験に進めないという場合、「そんな会社は見る目がないのだ」と言い切ってしまえるでしょうか。

読まれることを前提に書く

 私は予備校で小論文の添削をやっていました。ですから試験で必ず落とされるだろうダメな小論文から、どんな試験でも突破できるハイレベルのものまで、たくさん見てきました。

(中略)

 小論文では、「次の文章を読んで自分の考えを書きなさい」というパターンが多いのですが、そのときに、読み方が的確であって、それが間違っていないということを示す文章が小論文の中にさらりと書かれていると、ポイントが高くなります。これは、「自分は課題の意図を正確に理解している」というアピールになります。

 そして、もっとも採点の点数が高い最高レベルの小論文は、課題文の主旨や著者が言いたいことを的確に捕まえた上で、それを自分の経験に引きつけ、少しずらすという形で新しい概念に発展させて述べていくものです。それが出来ている文章は、水準を超えていることになり、高い点数がつきます。

(中略)

 もう少しわかりやすく説明してみましょう。

 私達は文章を読むとき、書くことを前提として読んでいるわけではありません。また書くときも、読むことを下敷きにして書く人は少ないと思います。

 しかし作家などのプロの書き手は、読まれることを下敷きにして書いています。彼らの文章がなぜあれだけ完成度が高く、人を感動させるのかというと、読まれることを前提にして書いているからなのです。

見られることを前提としている女優が、どんどんきれいになっていくのと同じです。

 しかし、私たちがふだんやっているのは、思ったことをだらだらとブログに書いたり、携帯電話で仲のいい友人に気楽なメールを打ったり、何でもいいから素直に書きましょうと言われて学校で作文を書かされたりということです。これは明らかに、赤の他人が読むという行為が下敷きになっていません。

(中略)

 ですから、いいものを書くためには、ふだんから「読んでいる」という足腰作り、鍛錬が必要です。その膨大な蓄積の上に、書くことがあると、私は考えています。

 さらに、実際に書くという作業の際にも、私の場合は、読んで聞かせるにはこれとこれを念頭においたほうがわかりやすいだろう、というような明らかに「読み」を意識した書き方をしています。このように「読み」と「書き」とは直接的に連動しているわけです。

 しかし本来は当然であるはずの、「読むこと」と「書くこと」の強い連動が、普通の人にはそれほど意識されていないというのが私の印象です。

 ですからこの本では、その両方をいっぺんに上達させるための授業をしているのだと思って読んでください。

(中略)

 そしてこの本で「読み上手、書き上手」になる方法を身につけて、最終的には自己アピールのうまい人になって、競争の激しい社会で生き残っていきましょう。

(ここまで)

 このあと、三日間のトレーニングが始まります。読み書きが上手にできるようになるには、そのための練習をすることが役立ちます。

トレーニングにでてくる課題のいくつかを列挙しますので、どんなトレーニングなのか想像してみてください。

課題 あなたが最近読んだ本について、「その本の面白かったところは何か」「著者が言いたいことは何か」「あなたがそこから学んだことは何か」について三分間で話しなさい。

課題 あなたが好きな本のポップを書いてみましょう。本屋さんに立ててその本が売れるような紹介文を考えてください。

課題 なぜその本をお勧めするのか、その理由を話してみましょう。話せたら、今度は決めゼリフを入れて推薦文を書いてください。

課題 「ドラえもん」の一話分のストーリーを、セリフをつなげながらまとめてみましょう。

課題 「ドラえもん」の一話を「小説ドラえもん」風にまとめてみましょう。

課題 自分のお気に入りの漫画や本、映画について、原稿用紙五枚であらすじや紹介文を書いてみましょう。

課題 あなたがお気に入りの漫画、本、映画について考えられる限りの「発問」を並べ、解説本の目次をつくってみましょう。その「発問」の中から、面白そうなものをその本のタイトルにしてみましょう。

 発問とは、ただの質問ではなくて、読み取りを要求するような問いの出し方です。「夏目漱石の「こころ」で、どの時点で主人公はKを裏切ることにしたのでしょうか?」とか「Kが自殺する前に考えたことは何だったのでしょうか?」というような内容に関する問いのことを「発問」といっています。

課題 あなたが実感した「格差社会」についての「問い」を立ててみましょう。その問いに対する自分の経験を洗い出してみましょう。

課題 夏目漱石の「それから」の文章で、代助と三千代の関係の変化に注目し、変化した箇所を三つあげてみましょう。

課題 いままで印象に残った言葉をありったけ書き出してみましょう。

 このような意識的なトレーニングを実際に行うと、本当に役立つと思います。

 最後の課題に関しては、一、二個くらいであきらめずに、20個くらい、もっと自分を絞り出して書いてみましょうとのことです。

 

 

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