岡本隆司 中国史とつなげて学ぶ日本全史 (2021)

2024.08.18

 岡本隆司 (1965年12月生) さんは、歴史学者で、中国近代史を研究されています。

 この本で、現行の日本史が、日本という入れ物の中のことのみに焦点をあて、日本が世界との関係においてどのように変化し影響しあったのかの観点が希薄だとのべ、東洋史の観点から日本史を語る試みを披露します。

 まえがき 東洋史から日本史を捉えなおす で、以下のように語ります。

2頁
 一国の歴史をたどるにあたっては、内部の精細な史実を知ることが、もちろん欠かせません。しかし、それだけでは不十分です。その国が世界との関係の中でどのように変化してきたか、あるいは世界にどのような影響を及ぼしたかを見ることも、劣らずいっそう重要だと思います。・・・・
3頁
 ところが現行の日本史の多くは、そうなっていない気がします。日本という「筒」の中でのみ焦点を絞り、その流れに沿って「こういう出来事があった」と羅列しているだけのような印象があります。
6頁
 西洋の場合、(中略) イギリス史は、フランス史やゲルマン民族史を抜きにしては語れません。もともと複数の国がひしめき合い、(中略) 自国史=西洋史でした。
6頁
 一方、日本の場合はそうはいきません。いくら日本史を掘り下げても、全体的な世界史は出てきません。折に触れて外国が登場はしても、あくまで日本からする意味づけにすぎず、客観的な文脈はほとんど重視されません。
7頁
 そのため内藤湖南たちが草創したのが、東洋史学という学問でした。(中略)
 東洋史学によって中国や東アジアという世界を説明できれば、その関係性から日本のありようも明らかにできるわけで、ひいては世界全体における日本も位置づけられます。日本の歴史学が構想されたとき、これが多くの研究者のコンセンサスになりました。だから当時は大学のみならず、中等教育の授業科目にも「東洋史」と「西洋史」が存在したのです。日本史との接続も十分に意識されていました。
 ところが戦後、この二つの科目は「世界史」に統合されました。かくて中等教育では東アジアの比重が著しく低下し、大学にはかろうじて「東洋史」が残りましたが、今や解体寸前の絶滅危惧種です。つまり日本人は、先人が築いたはずの東アジアからの目線と日本を世界全体に接続するよすがを失いつつあります。
9頁
 日本史は西洋の各国史と違って、世界史と容易に結びつかない宿命を負っています。隣接する中国は自国こそが世界の中心とみなす中華意識が強く、他国への感心は希薄です。そのため、日本史は近接する東洋史にも直結しづらく、ましてそこから広く世界史に結びつくのも困難だという構造上の問題をはじめから抱えているのです。
9頁
 外国・世界から日本はどう見えていたのか、そこに関わって双方はどんな関係を築き、どういう影響を及ぼし合ったのか、そういうグローバルな規模・視点から見た東洋史や中国史、あるいはそれをとりまくアジア史全体の文脈を媒介にしながら、日本史の内容に立ち返るというステップで論述を進めています。

 例えば、第8章 アイデンティテイの破滅へ「国民帝国」論は日本に当てはまるか という節では、以下のような説明があります。

239頁
 日本は植民地を持たない江戸時代以前から凝集したクローズドシステムで、基本的にずっと「ワンネーション・ワンステート」の国民国家に適応できる素地を有していました。(中略)
 その後、日本は西洋を模倣して植民地を持ち、形の上では「国民帝国(Nation Empire)」になります。しかし、もともと列島だけで一体化していた国家なので、植民地の扱いに苦慮します。しかもその植民地はアジア流の多元共存社会であり、一体化していた日本とは政治・経済・社会の構造自体が異なっていました。(中略) だから日本持ち前の一体化は通用しません。少なくとも日本は、そうした植民地を統治経営するノウハウを十分に獲得できなかったのです。

 一つの国民が一つの国家を形成するのを国民国家の呼ぶのに対して、一つの国が、植民地を持って成立するとき、これを国民帝国とよびます。

 日本は、江戸時代の長期の鎖国を終え、明治時代に開国し、世界とのつきあいを始めました。明治時代以降の日本史は、日本から見た世界を扱うだけでなく、世界の一員としての日本を、東洋史や世界史の文脈の中でも学ぶべきだと私も思います。

 以下に、目次を示します。

まえがき 東洋史から日本史を捉えなおす
第一章 日本史は中国の“コピー”から始まった 【古代〜平安時代】
 一般的な「日本史」からは生態環境が抜け落ちている
 歴史の始まりは文字の始まりから
第二章 アジア・システムからの離脱 【平安時代〜鎌倉時代】
第三章 「日本全体が入れ替わった」時代 【室町時代〜戦国時代】
第四章 「国家」の成立 【江戸開府〜元禄・享保時代】
第五章 「凝集」する日本 【享保時代〜開国前夜】
第六章 開国と日中対立の始まり 【幕末〜明治維新】
第七章 朝鮮半島をめぐる外交と戦争 【明治時代】
第八章 アイデンティティの破滅へ 【大正時代〜昭和時代初期】
結 現代への展望

 

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