岡田英弘 日本史の誕生 (1994,2008) |
2021.06.03
岡田英弘 (1931-2017) さんは、 満洲史・モンゴル史が専門の東洋史学者ですが、
中国史や日本史に関して異論を唱え、日本の史学会では、異端扱いされてきました。
私は、最初、図書館で、岡田さんの「日本史の誕生」(1994) を見つけました。
https://calil.jp/book/4896674669
その後、ちくま文庫版の「日本史の誕生」(2008)も出版されましたので、私は、それを購入しました。
https://calil.jp/book/4480424490
岡田さんの語り口を紹介するために、まず、文庫本の10頁を、少し紹介します。
日本で最初に書かれた歴史は『日本書紀』だが、これは660年代に始まった日本建国の
事業の一環として、天武天皇によって着手され、720年に完成したものである。
『日本書紀』は、日本の建国を正当化するために書かれたものだから、その内容は、
日本国という統一国家には古い伝統があり、紀元前7世紀という早い時代に、
中国とも韓半島とも関係なしに、全く独自に日本列島を領土として成立し、それ以来、
常に万世一系の日本天皇によって統治されてきたのだという立場をとっている。
この『日本書紀』の主張は、中国や韓半島の文献とかみ合わないので、
事実と反していると考えることでは、現代の歴史家は一致しているのだが、
それでも『日本書紀』の枠組みの影響を逃れることは難しい。
何しろ、7世紀以前の日本列島の政治史の材料は、土着のものとしては『日本書紀』しかない。
『古事記』というものはあるが、後で詳しく述べるように、これは9世紀の平安時代の偽作であり、
その枠組みは『日本書紀』そのままなので、『日本書紀』と『古事記』をつき合わせても、
『日本書紀』の主張の壁を乗りこえるには役立たない。
やはり、『日本書紀』が反映している、7世紀の建国当時の政治情勢を考慮に入れながら、
その一つ一つの記事の価値を判断して、利用するしか方法はない。
これが史料批判というもので、歴史学の正統な手法であるが、
日本史しか知らない歴史家は、どうしても『日本書紀』の枠組みに引きずられがちである。
『日本書紀』の枠組みから自由になるためには、中国史と韓半島史の十分な知識が必要である。
ところが、ここにも困難がある。中国でも韓半島でも、土着の歴史書が主張することを、
そのまま事実として受け取るのは危険である。
それらの歴史書は、歴史である以上、中国なり韓半島なりが、それぞれ独自の起源を持つ、
統一国家たるべき宿命を持った文明であることを主張するために書いたものだからである。
そういう主張を持った歴史書を材料として研究する、中国史なり韓半島史なりの
専門家の考え方は、どうしてもその歴史書の枠組みに支配されやすい。
こうして『定説』といわれるものが生れ、『周知の事実』として
歴史教科書や歴史辞典に記載されることになるが、
そうした定説は、ほとんどが十分な検証もなしに流通しているもので、
定説ならばまず疑ってかかるほうが安全である。
卑弥呼について語る「魏志倭人伝」は、陳寿の書いた「三国志」に含まれていますが、
「親魏倭王」という称号を卑弥呼に与えた理由などは、「三国志」を読み解くことでしか理解できず、
「魏志倭人伝」だけを読んだのでは駄目であることは、十分納得です。
文庫本24頁の 邪馬台国ブーム から少し引用します。
1945年を境いに、日本の国史から『日本書紀』『古事記』の建国神話が追放された。
その空白を埋めるために、考古学の発掘資料と並んで、それまでまともにとりあげられ
利用されなかった中国の文献資料が、華々しく登場してきた。
考古学者にとって不幸なことに、日本列島では、文字を書くなり刻むなりした遺物が出土することはきわめてまれである。
出土しても、あまりに断片的なものばかりなので、それを使って『日本書紀』などの記述を
根本から書きなおすことなど、思いもよらない。
神話を離れて、われわれ日本人の起源を知るためには、日本建国の歴史を明らかにしなければならないが、
歴史は言葉で綴るものだから、考古学の管轄ではなく、文献史学の領域である。
そこで中国の正史、なかでも「魏志倭人伝」がもてはやされることになり、
卑弥呼ブーム、邪馬台国ブームが現出することになった。
(中略)
しかし、歴史学の正道では、何よりもまず、「魏志倭人伝」が三世紀という時代に、なぜ、
どのようにして書かれたのか、「魏志倭人伝」という文献の本質は何なのかを問題にするのが順序である。
この本の中で、詳しく説明されていますが、三国志自体や、その一部である魏志倭人伝は、
極めて政治的な意図のもとに記述されています。その政治的意図を理解しながら、
日本についての事実を読み解く必要があるのです。
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