岡百合子 中・高校生のための朝鮮・韓国の歴史 (2002) |
2021.06.12
韓国の歴史を学ぶために、この本を読んでいます。韓国の歴史自体に興味があるわけでなく、
日本語の発展過程における古代朝鮮語の影響を調べたいからです。
萬葉集には、古代日本語が記録されていますが、現代日本人にも理解できる言語です。
その当時、大陸から大勢の渡来人がきて、古代日本語に影響を与えた可能性があるのですが、
もし、そうなら、それは古代日本語に痕跡として残っているはずであり、
また、現代朝鮮語においても、類似性を持つはずです。
ところが、現代の日本語と、韓国語・朝鮮語とは、文法は極めて似ているのですが、
単語はかなり違う為、聞き比べて、似た言語であるという印象はありません。
はたして、古代朝鮮語とは、どのようなものだったのでしょう。そして、
朝鮮において、古代朝鮮語から、現代朝鮮語にどのように変化したのでしょうか。
日本で書かれた古代日本と古代朝鮮の関係史は、いくつも読んでいるのですが、
日本と韓国は、歴史観が極めて異なるため、韓国ではどのように語られているかも
知っておきたいと思っています。
その一つとして、この本を読んでいるのですが、私は、この本の読書をそのまま他人に勧めることはできません。
この本は、日本の中・高校生のために書かれているので、ますます許す事はできません。
その許せない部分について、少し述べたいと思います。
本書の著者の、岡百合子さんは、日本人ですが、在日朝鮮人の高史明さんと結婚しました。
あとがき から少し引用します。304頁
朝鮮について無知なまま在日朝鮮人の夫と結婚した私でしたが、共に暮らす中で
はじめて日本人の朝鮮に対する差別、偏見が解放後も植民地時代と変わっていないことを知り、
これではいけないと自分の歴史の授業の中で朝鮮をとりあげるようになったのです。
日本の植民地支配、こんなこともあんなひどいことも、夢中で「告発」する私。
生徒は素直に聞いてくれて、感想文を書かせれば「日本が悪い」と書きました。
教育の効果あり、と私はちょっと得意でした。
ところがあるとき、全国の中・高校生のアンケートで、嫌いな国のトップに、
朝鮮・韓国があがっているのを見ました。愕然としました。
理由は、みじめで貧しい、弱い国だから、いつまでも日本を恨んでいてしつこい − などなど。
そういえば生徒の感想文にも、「朝鮮はかわいそう」などというのが多かった。
日本の加害を知り朝鮮の被害を知ったところで、相手が嫌いだったら本当に悪いなどと思えるだろうか。
私は朝鮮が好きになるような授業をしてはこなかった。
私は、ゆきづまってしまったのです。
そのようなとき、岩崎書店から、世界各国史のシリーズのひとつ、
『朝鮮・韓国』を書かないかというお話をいただきました。
岡さんは、その本を書くために、たくさん勉強し、朝鮮の民衆の明るさを認識し、
大好きな朝鮮像を、歴史叙述が許すぎりぎりの範囲で、物語や人物をとりあげて書いたと語ります。
この本は、1990年3月に出版されたのですが、平凡社ライブラリーとして出版するにあたり、
大幅に改訂し、て、2002年に出版しました。
この本は、最初、1990年に出版されたこともあり、ソ連の共産主義を好意的に書いた部分があります。
ソ連は、1991年末に崩壊し、東西の冷戦時代が終わりましたが、
現在は、中国が力を付け、その覇権主義の牙を隠さなくなったため、
中国共産主義との戦いが始まり、あらたな冷戦時代を迎えようとしています。
中国共産主義との闘いは、ソ連共産主義との戦いよりも、厳しいことになることが予想され、
私達の子供達の世代は、その厳しい時代を生きなければなりません。
そこで、岡さんが、第二次世界大戦後の歴史を書いた容共的な部分に、反論しておきます。
この本の260頁で、岡さんは、こう語ります。
1945年8月15日、日本は連合国に無条件降伏をした。
このニュースは、またたくまにソウルの町じゅうをかけめぐる。
表にとびだして万歳をさけぶもの、おどりだすもの、中心街はまるでお祭りのような人出で、興奮にあふれかえっていた。
日本の敗戦は朝鮮人にとって、待ちに待った解放の日だったのである。
(中略)
しかし、人びとは知らなかったのだ。
またしても、朝鮮の未来にかかわる重大なとりきめが、このときすでになされていたことを。
朝鮮の悲劇は、この時すでに世界が米ソ二大勢力の対立の中にあったことから始まった。
植民地支配からやっと解放された朝鮮は、同時にこの対立の渦の中にまきこまれることになったのである。
日本が降伏するまえの8月9日、ソ連が対日戦に参加した。
その年2月のヤルタ協定にもとづいての行動である。
ソ連軍は満州に進撃すると、あっというまに朝鮮との国境をこえた。
朝鮮全土が数日のうちに、ソ連軍の占領下におかれるのはあきらかだった。
このときとつぜん、アメリカがソ連に緊急の電報をうった。
その内容は、北緯38度線を境としての分割占領の提案である。
岡さんは、この分割こそが、朝鮮の南北分断の悲劇のはじまりだと説くのですが、
これは、どう考えても、間違いです。
このとき、ソ連が、朝鮮半島全体を占領していれば、朝鮮半島全体が、今の北朝鮮となっていて、
戦後の韓国の自由主義世界における繁栄は、ありえなかったことになります。
岡さんは、本当に、それがいいと思っているのでしょうか。
米国のルーズベルト大統領は、ソ連に好意的な政策をとっていましたが、
1945年4月12日に急死しました。トルーマン副大統領が引き継いだのですが、
トルーマン大統領は、ソ連に対して、強硬姿勢をとり、
ソ連が、日本の分割統治を提案してきたとき、これを拒否しました。
お陰で、日本は、分割されることなく、自由主義世界で生きることができました。
朝鮮の人達は、日本が敗戦したことで、朝鮮に独立がもたらされたと思ったようですが、
世界は、そんなになまやさしいものではありません。
棚から牡丹餅のように独立を得たとしても、その独立を維持するだけの政治勢力がなければ、
独立は維持できず、元の木阿弥になります。
金日成は、朝鮮半島全体を支配することを欲し、毛沢東やスターリンの同意と支援をとりつけて、
1950年6月に韓国に侵略戦争をしかけました。
この朝鮮戦争は、1953年7月に休戦となりましたが、この3年間に及ぶ戦争は、
朝鮮半島全体を戦場とし、国土は荒廃しました。
日本も、太平洋戦争の末期に米軍の空爆により、日本の大都市は、殆ど破壊されましたが、
朝鮮戦争のときに米軍が空爆した爆弾の量は、日本に落した量よりも多かったと聞きます。
岡さんは、第5章5節 「統一へのねがいは消えない」で、朝鮮戦争後の韓国と北朝鮮の歩みを概観し、
最後を次の文章で締めくくります。
朝鮮の悲しみ、苦しみには、「近代」を開いた人類の世界的な暗闇がうつしだされている。
朝鮮の平和は、世界の平和にとって、大きな光となるであろう。
朝鮮半島の人びとはいま、人類の重荷をせおいながら、その苦しい歩みを進めているのである。
しかし、この文章は、美化しすぎていて、現実を反映していないと思います。
外部の人から言わせれば、韓国の悲しみは、その政治に起因します。
政治は、常に派閥争いです。負けそうになった側は、外国から支援を求めたりします。
外国からの軍隊を売れ入れることは、国として甚大な被害を被る売国奴的な行為なのですが、
相手派閥に勝つためには、こんな悲惨な手段をとるのです。
韓国は、戦後は右派の軍事政権が続き、親米政策をとっていましたが、
今は、左派が政権をとっており、祖国統一を悲願としています。
祖国統一は、北朝鮮による朝鮮半島の統一という形をとると思いますが、
韓国の人達は、本当にそれを望んでいるのでしょうか。
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