大角修 すぐわかる日本の仏教 改訂版 (2022) 

2023.05.06

  東京美術社のすぐわかるシリーズの一冊です。日本の文化と生活に深い影響を及ぼした仏教の歴史・人物・仏教体験を探索する本です。

 第一章の「通史でとらえる日本の仏教」では、飛鳥・奈良・平安時代と、鎌倉・室町・江戸時代と、明治〜現代の仏教が取り上げられます。

 私が、一番興味深かったのは、74頁の「明治維新の大きな影響」です。

 維新政府は、国家神道の推進のため、1968年に神仏分離令を発布しました。
主目的は、神社に付属する神宮寺の分離と、神社の僧の還俗で、仏教の禁教を意図したものではなかったのですが、廃仏毀釈運動に発展してしまいました。
激しい廃仏毀釈は、数年でおさまりましたが、仏教は、大きなダメージをこうむりました。

 1871年に、曹洞宗僧侶の雪爪が、僧侶の肉食妻帯の公認を求める建白書を提出し、1872年に政府は「肉食妻帯勝手たるべし」という布告をだしました。
僧侶と俗人の差をなくして、僧侶身分を廃絶することが目的です。
この布告は、もともと妻帯してきた浄土真宗以外の各宗に衝撃を与え、反対運動も起きたのですが、
順次、現実路線に転じて、各宗とも、肉食妻帯を公式に認めてゆきました。

 しかし、僧侶の結婚は、日本以外の仏教圏ではありえないことです。
146頁に、アジアからの留学生を支援している寺の住職から、「なぜ日本のお坊さんは結婚しているのか」とよく質問されて困るというエピソードが紹介されています。
日本の仏教が堕落している証拠として僧侶の結婚があげられることが多いそうです。

 なまぐさ坊主が発生したかもしれませんが、日本仏教の堕落に直結するものでなかったことは、主張したいですね。

 また、76頁の「ブッダと宗祖の再発見」も、仏教の近代化を引き起こした大きな動きでした。
江戸時代までは、釈尊が実在した人物なのかどうかなど、わかっていなかったのですが、明治時代になって、世界的に、釈尊の遺跡の調査や、古い経典の研究がすすみました。
釈尊時代の仏教は、原始仏教とか、根本仏教と呼ばれているそうです。

 大乗仏教が依拠している仏典は、釈迦の死後、何百年もたって作成されたものだとわかったのも、この頃です。
仏教というのは、宗祖が直接語った教えだけでなく、その後も続いた仏教集団によっても発展してきたというのが、日本の仏教界の考え方だと思います。

 80頁の「祈りの復活」も、戦後の日本の仏教の大きな変化を描いています。
戦後、基本的人権として信教の自由が認められ、政教分離が国家の基本となりました。
戦後の高度成長期には、仏教は非科学的なものと思われましたし、唯物思想の側からも、宗教は麻薬だと批判されました。
仏教界でも、教学の中から非科学的と思われる密教的な要素や祈祷が排除され、「人には親切」「世界に平和を」といったモラルや人類愛が強調されるようになりました。

 しかし、その一方で、都市への人口移動に伴って出現した新都市住民を中心に新宗教団体が急激に成長しました。この現象を解説した部分を、以下に引用します。

 昭和20年代は、創価学会・立正佼成会などの新宗教が急激に広まり、「神々のラッシュアワー」といわれるほどの社会現象となった。
新宗教団体の会員になったのは、おもに都市住民で、入会の動機は「貧・病・争」だといわれている。
経済的困窮、病気、家庭内の不和などの悩みをもつ人が誘われて入会した例が多かったからだ。
ところが、その隆盛は、戦勝祈願に嫌気がさして「お祈りはこりごり」という気分の人々を苛立たせ、当時のマスコミ用語で「新興宗教」といえば邪教というのに近かった。

 しかし、宗教団体に属していても、じつは神仏を信じてなんかいないという人は珍しくない。
伝統社会の縁故から自由になった反面、孤立しがちな都市住民は新宗教団体をおとずれて、悩みを親身になって聞いてくれる「親切な人々」に出会ったのであり、信仰のあるなしより、居心地のよい人間関係があるかどうかのほうが、ずっと重要だからだ。

 また、1995年には、オウム真理教による地下鉄サリン事件が発生しましたが、この教団上層部に、有名大学で科学を学んだ人が大勢いました。
エクトプラズムとか、サイキックのようなカタカナ用語がオカルト的な宗教用語として使われるようになりました。
心霊スポット巡りとか、アニメの妖怪ブームなども、その延長線上にあります。

 神秘的なものへの関心や、そこに働きかける祈祷を、いかに宗教と調和させて復活させるかが肝心と、大角さんは、訴えています。

 改訂版は、2022年の出版ですが、初版は、2005年に刊行されました。初版の方も所持していますが、初版の150頁までは、ほぼ同じで、151頁の索引が、索引用語の用語解説となって、151-168頁の巻末付録となりました。
あと、図解で知る日本の仏教、169-175頁が追加されたのが、改訂版です。

  

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