新田大作 漢詩の作り方 (1970) |
2020.4.18
新田さんのこの本で、漢詩の勉強をしています。この本は、昭和45年発行ですが、
私のもっている本は、平成15年(2003年)に新装版として発行されたものです。
しかし、アマゾンでは、今現在、旧版も新装版も入手できませんので、
私の勉強に伴って、かなり詳しく、内容を紹介しようと考えています。
まず、目次を紹介します。
漢詩というもの
一 漢詩の流れ
二 漢詩の種類
三 漢詩の組み立て
五言絶句、七言絶句、五言律詩、七言律詩
四 漢詩のリズム
五 韻の分類
作詩の方法
一 ことば集め
二 作詩のくふう
七言絶句、五言絶句、読者の習作
三 名品鑑賞
四 いろいろな注意
詩語編
漢詩というもの
四 漢詩のリズム
漢字の発音には、アクセントがありますので、規則を決めて漢字を並べると、リズムが発生します。
漢字のアクセントには、四声あります。
�(神�(ひょうしよう) 平らかな発音のもの 30種
�⊂綫次覆犬腓Δ靴腓Α法/�あがりの発音のもの 29種
�5鄒�(きょしょう) 尻さがりの発音のもの 30種
�て�声(にっしょう) 語尾がつまる発音のもの 17種
現代の中国語(北京語)でも四声といわれて、アクセントの分け方は四種類となっていますが、
その内容は全く別のものですので、混同しないことが必要です。
中国の長い歴史の中で、ことばの発音はいろいろに変わってきました。
周・漢の上古といわれる時代から、隋・唐の中古の時代への変化、唐から宋へ、
そして元の時代へと、時代が移るに従ってことばは変化してきました。
その結果は、いま記しました「四声」の中の四番目「入声」は現代中国語からは消えてしまっていますし、
「上声」の発音のことばが少なくなって、それらは「去声」に変わったというようなことになっています。
漢詩の四声の分類は、宋代の南宋の劉淵(りゅうえん)が出版した分類に従っていて、「平水韻」と呼ばれています。
また、当時の文部省にあたる礼部で採用され、公布されたため「礼部韻」「礼韻」とも呼ばれています。
さて、先ほど記しました四声のうち、「平声」だけを別にして、
他の「上声」「去声」「入声」の三種を合わせて「仄」(そく)の音と称します。
それに対して「平声」はそのまま「平」(ひょう)の音と称します。
詩のリズムを考えるときは、この「平」と「仄」との区別だけに注意すればよいのです。
また、詩の各句の終わりのことばの発音を、ある規則によって調和させること、
すなわち「韻をふむ」ことを考えるときには、「平」の30種類の分類についてだけ注意すればよいのです。
なぜこんなことをいうかといいますと、よく漢字のアクセントを全部知っていなければ詩が作れないのではないかとか、
中国語を知らなければだめなのではないかという、とんでもないことからの取り越し苦労をする人が案外多いからです。
漢字が汝あるのか、綿も確かには知りませんが、その発音やアクセントをいちいち正確に覚えるなどということは神業に近いことです。
まして現代中国語とかけ離れた、いわば文章語の中にしか存在しない音韻組織にもとづく作詩なのですから、
現代の中国語とはむしろ無関係といったほうがよいくらいのものです。
ただ、いまいいましたように、大切なのは「平声」のことばで、したがって、それが30種類に分かれているのですから、
1種類平均五語から七語くらいずつ、合計約二千字について、
それらがだいたいどの種類にはいるか見当がつくぐらいであればようのです。
しかもみれは、無理に覚えるのではなくて、作っていくうちに自然に覚えられるものなのです。
面倒なことはこれくらいにして、さっそく、リズムの形式の話にはいりましょう。
『七言絶句 平仄図式』
第一式 第二式 第三式 第四式
△●△〇△●◎ △〇△●△〇◎ △●△〇△●◎ △〇△●△〇◎
△〇△●△〇◎ △●△〇△●◎ △〇△●△〇◎ △●△〇△●◎
△〇△●△〇● △●△〇△●● △●△〇△●● △〇△●△〇●
△●△〇△●◎ △〇△●△〇◎ △〇△●△〇◎ △●△〇△●◎
漢詩ではリズムを生む形式を「平仄図式」といいますが、これは基本的には四通りしかありません。(中略)
右の四通りの式に共通して、○印は「平」を用い、●印は「仄」を用い、△印は「平」でも「仄」でもさしつかえないという印です。
ということは、この四通りのうちどれでも、その各行(すなわち各句)を見ますと、
その二字目、四字目、六字目に「平仄」のきまりがあって、一字目、三字目、五字目にはその制限がないということです。
そしてまた、そのどれにも共通して、二字目と四字目は「平仄」が反対になっていなければいけないし、
二字目と六字目は同じ「平仄」でなければいけないということが、おわかりかと思います。
これを、覚えやすく、「二四不同、二六対(つい)」と称しています。
ただし、一つの例外として、●●〇〇●〇●は、二六対ではありませんが、許されて、「挟平格」とばれます。
以下は、少し整理して説明しますと、
第一式の起承転結句の二字目は、●〇〇●で、これが正式です。
第三式は、●〇●〇で、これは変則で、第一式に比べて、音韻の変化に乏しいとされ、「拗体」とよばれています。
第二式の起承転結句の二字目は、〇●●〇で、これが正式です。
第四式は、〇●〇●で、これは変則で、第二式に比べて、音韻の変化に乏しいとされ、「拗体」とよばれています。
七字目の◎は、「平」の語の中で、韻が同じ種類のものを用います。
転句の七字目は、●を使って、わざと韻をふまずに、変化をつけます。
四字目が、○のとき、その前後を共に●にすることは避けます。これを「四字目の孤平は避ける」と呼びます。
また、●●●、または、〇〇〇 と、連続する「下三連」は、避けます。
一つの詩の中で、同じ字を二度使うことはしません。「同字相反す」と呼びます。
『五言絶句 平仄図式』
第一式 第二式 第三式 第四式
△●△〇● △〇△●● △●△〇● △〇△●●
△〇△●◎ △●△〇◎ △〇△●◎ △●△〇◎
△〇△●● △●△〇● △●△〇● △〇△●●
△●△〇◎ △〇△●◎ △〇△●◎ △●△〇◎
第一式、第三式が正式、第二式、第四式が、変則です。
第二句と、第四句の最後の五字目のみが韻を踏み、第一句の五字目は、韻を踏みません。
作詩の方法
いままでいろいろなことを述べてきましたが、いよいよ作詩ということになりますと、ほんとうの基本にたち戻らなければなりません。
まず詩の形を身につけることですが、それには、前にもいいましたが、短歌や俳句や自由詩を作るのと同じような考え方ではだめなのです。
漢詩を作る場合には、まず、本書に載せてありますような、詩語を集めた書物の中から適当なことばを拾って、組み立てていく練習が大切なのです。
(中略)
でき上った作品は、(中略) 現実離れをした、いかにも時代遅れのものとしか考えられないかもしれませんが、実はそうではないのです。
(中略)
ここに生み出され、描き出されたものは、まさしく、いまはじめて、ここに写しだされたものであるはずです。
ことば集めの初歩的段階ながら、これはまた、まさしく創作の第一歩なのです。
文学は、しょせんフィクション(虚構)です。
しかしそれは、虚構でありながら虚構にとどまらず、同時にその作者の真実の表現であります。
ここに借りに描き出されたものがあるとしたら、それはその描き出した人の分身にほかならず、その人の心の表現以外の何ものでもないわけです。
しかも、いまだかって一度もおのずからは考えたことのない世界が描き出されるということは、まことに不思議といえば不思議なことです。
私は、これこそ漢詩を作ることだけにあるといってもよい楽しみだと思います。
どうか、このことば探し、ことば選びによる、詩想の涵養・鍛錬を大切にしてください。
これは、ことばによる鍛錬ですから、これを続けていくうちには、失礼な言い方ですが、
現在貧弱な語彙しか用意がなくて毎日あえぎあえぎ文章を書いているようなある種のジャーナリストの人々よりは、
はるかに豊富なことばの所有者・使用者になれると思います。
とはいっても、これはあくまで副産物でして、ことば探し、ことば選びの本来の目的は、平仄・韻字の勉強と詩作の基礎の養成です。
ここに焦点を絞って、まず二年から三年、骨を折っていただきたいと思います。
さて、この本には詩語編があり、以下のテーマをカバーしています。
春 元旦、立春、春日、田園、花、交友、山寺、月、雨、暁、夜、送別、鴬、春寒
夏 池、初夏、梅雨、暑、緑蔭、雨、納涼、山、舟
秋 立秋、雨、秋興、送別、月、無月、海月、田園、山寺、楓、笛、夜泊、菊(重陽)、雁、虫、読書
冬 初冬、晴、寒夜、田園、雪、交友、山寺、晴雪、雪達磨、釣、読書、寒苦、寒梅、歳末、除夜
雑 出立、老師、尊師、医師、弔問、城址
春 元旦 の頁には、まず、2文字のことばが 64個 リストアップされています。例示すると、
〇〇 ●〇 〇● ●● ●● ●● 〇● ●〇 〇〇 〇〇 〇〇 ●●
迎年、孟春、元旦、瑞氣、萬歳、賀客、残雪、太平、屠蘇、春来、山河、處處
5言絶句の2文字+3文字、7言絶句の2文字+2文字+3文字 の2文字の部分に入れることばを探します。
自分でも、ことばを探して、●〇を調べて、リストに加えてもいいのですが、
新田さんは、まずは、詩語編にあることばをじゅうぶん吟味することが大切だとおっしゃいます。
春 元旦 の頁には、その後、韻 をそろえた、3文字のことばのリストが続きます。
韻は、平声の漢字で踏みます。平声は、上平と下平に分かれ、それぞれ15種、合わせて30種あります。
各グループは、その代表文字で表されますので、
上平=一東、二多、三江、四支、五微、六魚、七虞、八齊、九佳、十灰、11眞、12文、13元、14寒、15刪、
下平=一先、二蕭、三肴、四豪、五歌、六麻、七陽、八庚、九青、十蒸、11尤、12侵、13覃、14塩、15咸
となります。
詩語編のリストには、一東 が 37個、四支 が 17個、十灰 が 33個、 十一眞 が21個あり、
全グループが含まれているわけではありません。
リストには、更に、韻を踏まなくていい転句のために、23個の3文字が並んでいます。
この本には、更に、詩語集を使って作詩し、それを推敲する例がのっていますので、
じっくりと勉強することができます。
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