日本古典文学全集12 源氏物語1 (1970, 1996) |
2021.1.9 更新2021.1.14
源氏物語の翻訳をするときには、図書館から、日本古典文学全集の新編の
源氏物語の巻を借りてきていたのですが、この度、古本で、旧版の6冊を購入しました。
新編の月報に、秋山虔さんが、旧版の出版時の様子を書いてくれていますので、紹介します。
●「日本古典文学全集」の第一回配本として「源氏物語一」が刊行されたのは昭和45年11月であった。
原文を挟んで上・下段にそれぞれ注解と現代語訳が組まれるという体裁は、
検討を重ねたうえでの新機軸とはいえ、従来の定石からすればいかにも奇抜であったから、
これがどれだけ読者に迎えられるか、編集委員の一人だった私のひそかに危惧するところでもあった。
●しかし、要はその内実にあったといえよう。
最善の底本によって厳密に校訂された本文が最も読まれやすい形に工夫された、
頭注には最新の研究成果が細心に収取され、解読上の要諦が提示された。
現代語訳は本文に即して精確でありつつそれ自体で味読するに足ることが目指されていた。
この三者が緊密に相呼応するこの「全集」の各冊は、研究者に対して拠るべき指針の書として、
また一般読書人に対しては古典の世界へと深切に誘導する教養書として、
いつか不動の声価を獲得することになったといえよう。
●さて、このたびの「新編日本古典文学全集」は「全集」51巻の全面的な改稿版を含めて増巻し、
第一・第二期全88巻の体系として刊行されるものだが、
この壮挙は一に「全集」の読者から寄せられた熱い要望に応える大事業であるといえよう。
これまでは、原文と現代語訳が、別のページに印刷されている例が多かったのですが、
同じペーシに、三段組みで、注釈と本文と現代語訳を読むことが出来るのは、
詳細に比較しながらの学習には、本当に便利です。
旧版の校注・訳者は、以下の三名です。
阿部秋生(あべあきお) 1910年10月24日−1999年5月24日
秋山虔(あきやまけん) 1924年1月13日−2015年11月18日
今井源衛(いまいげんえ) 1919年2月16日−2004年6月12日
旧版の月報に、久松潜一さんが、三人の校注者の紹介をしているので、紹介します。
●阿部秋生君は大学を卒業してから国民精神文化研究所の嘱託をされた時に
古文献の復刻に力を入れられ、河村秀根の書紀集解等を手がけられた。
御堂関白記等をもよく読まれ、それについての論文を学士院紀要に発表されていた。
そんなことも氏の源氏物語研究の基礎になっている。
東京大学の教養学部で学部長もつとめられたが、思慮分別のある君は
落ち着いて事を処理するのに長けているのである。
源氏物語の研究では明石の上の人物造形を克明に分析してゆかれる間に
源氏物語の本質にまで迫っていったすぐれた研究がある。
宿世の問題追及にしてもそうであった。
●秋山虔君もすぐれた源氏研究家であるが、阿部君とは人柄も学風も異なった風格がある。
小柄であるが端正で、頭脳も明晰であり、文学的感受性も鋭い。
亡くなった島津久基氏が深く信頼されていたのも、島津氏の一面をよく受け継いでいるからであろう。
源氏物語の方法を人物造形の上から深く追及しており「源氏物語の世界」にそれをまとめて刊行された。
王朝女流文学の系譜をたどった研究もあり、紫式部日記については書誌的にも種々の成果をあげている。
これからの源氏物語研究をどのように展開されてゆくか期待される。
●今井源衛君は秋山虔君と同年輩であり、源氏物語の研究では秋山君と雁行してすぐれた成果をあげている。
(以下省略)
新版は、源氏物語一を、第一回配本として、1994年2月に刊行が始まりました。
新版では、校注・訳者が一人追加になりました。
鈴木日出男(すずき ひでお) 1938年4月7日−2013年10月3日
新版が出版されたときは、校注・訳者の4名とも、ご健在でしたが、
今現在、全員お亡くなりになられています。
旧版は、巻頭に立派なカラー図版のページがあるのですが、新版には削除されました。
また、新訳では、現代語訳が、かなり変更になっています。
例えば、桐壺の出だしは、以下のとおりです。
旧版
どの帝の御代であったか、女御や更衣が何人もお仕えしておられた中に、
たいて重々しい家柄ではない方で、目だって帝のご寵愛をこうむっていらっしゃる方があった。
新版
帝はどなたの御代であったか、女御や行為が大勢お仕えておられた中に、
最高の身分とはいえぬお方で、格別に帝のご寵愛をこうむっていらっしゃるお方があった。
新版も、旧版と同じく、6分冊で出版されたのですが、
1998年に、携帯にも便利なサイズということで、古典セレクション 源氏物語 と題して、全16冊版も出版されました。
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