成田美名子 花よりも花の如く (2003-2017)

2018.7.11 更新2018.7.13, 2018.7.16

 6月30日に開催された、「能に親しむ会」15周年記念行事 「お能は知れば面白い!」(檜書店が共催)に参加しました。

国立能楽堂で、14時から16時過ぎまで開催され、参加者は100名を優に超えていました。

 第一部の目玉が、漫画家の成田美名子さんを招いてのインタビュー&トークで、それが集客力を持ったのでしょう。

成田さんは、着物を着てこられ、非常に優雅な方という印象でした。

 そこで、私も、おそまきながら、お能をテーマにした成田さんの 花よりも花の如く を読むことにしました。

 成田さんは、2001年に、NATURALというシリーズの外伝として、花よりも花の如く天の響き という読み切りの2作を描かれ、

それがきっかけとなり、花よりも花の如く というシリーズが2003年から始まり、最新刊は2017年の巻17ですが、

少女漫画雑誌メロディでの連載は、継続中です。

 2001年の 花よりも花の如く は、お能の羽衣を題材にしていて、クライマックスで、主人公の憲人が

桜の花びらが舞い散る中で、羽衣の舞を舞います。

 それを見て、妹の彩紀は、「うそ。ケンちゃん かわいい。きれい・・・!」とつぶやき

弟の西門も、「彼の表情を『感じた』とき私の中の少女がはにかんだ」 と心に思います。

 これが、題名の「花より花の如し」となり、その後のシリーズ名になったのだと思われます。

 

 成田さんは、「能狂言が見たくなる講座十撰」にも、能をコミックに 『花よりも花の如く』 の回に登場しますが、

高校の教科書に載っていた「羽衣」を観たくて、でもなかなか機会がなくて、安芸の宮島まで行って見る事ができたそうです。

季節は秋ではなく、だったので、桜の花びらが舞い散る中での羽衣の舞のシーンが生れたのでしょうね。

 

 漫画は、いろんなシーンを絵で目に見せてくれるので、理解が深まり、記憶に残るという点で、非常に有難いです。

江川達也さんの源氏物語の漫画は、かなりエロチックなのに対し、こちらは、メロディが少女漫画雑誌なので、

かなりおとなしく純真に描かれています。

 

 なお、成田さんが最初に観た能は、葵上でした。

それまでは歌舞伎のほうが好きだったんです。仏像とかも好きで・・・。ひねた高校生でした。

 

NATURAL 巻11 2001年12月

 花よりも花の如く      メロディ 2001年5月号掲載

 天の響き          メロディ 2001年7月号掲載

花よりも花の如く 巻1 2003年7月

 花よりも花の如く 鬼の栖  メロディ 2003年1月号掲載

 星霜を髪に戴き       メロディ 2003年3月号掲載

 お能の国の人だから     メロディ 2003年5月号掲載

 大人はなにかをかくしている メロディ 2002年7月号掲載

花よりも花の如く 巻2 2004年5月

 遊びをせんとや生まれけむ  メロディ 2003年7月号掲載

 とうとうたらりたらりら   メロディ 2003年9・10月号掲載

 風天            メロディ 2004年2月号掲載

 花を描くのも楽じゃない   メロディ 2002年1月号掲載

花よりも花の如く 巻3 2005年2月

 影に形のよりそいて     メロディ 2004年4月号掲載

 秘密            メロディ 2004年6月号掲載

 大王 あん玉 あんこ玉   メロディ 2004年8・10月号掲載

 花を観るのも楽じゃない   メロディ 2005年1月号掲載

花よりも花の如く 巻4 2006年4月

 光る軌跡          メロディ 2005年2・4・6月号掲載

 天気晴朗なれど波高し    メロディ 2005年8・10月号 2006年2月号掲載

花よりも花の如く 巻5 2007年8月

 贈る言葉          メロディ 2006年5月号掲載

 記憶再生          メロディ 2006年8・10・12月号掲載

 仄暗き夢の底より      メロディ 2007年2月号掲載

 三聲会GO         メロディ 2006年12月号 2007年2・4月号掲載

花よりも花の如く 巻6 2008年11月

 仄暗き夢の底より      メロディ 2007年4月・6・8号掲載

 石に願いを         メロディ 2007年10・12月号 2008年2・4月号掲載

 私をジャズ・バーに連れてって  描きおろし

花よりも花の如く 巻7 2009年5月

 石に願いを         メロディ 2008年6・8・10・12月号 2009年2・4月号掲載

 石に願いを 宇治散策マップ  描きおろし

花よりも花の如く 巻8 2010年7月

 石に願いを メイキング    メロディ 2009年4・6・8・10・12月号 2010年2月号掲載

 石に願いを 京都〜大阪散策マップ  描きおろし

花よりも花の如く 巻9 2011年7月

 関              メロディ 2010年4・6・8・10・12月号掲載

 三聲会GO特別編1 道成寺への道    メロディ 2011年82月号掲載

 三聲会GO特別編2 道成寺&花子への道 メロディ 2011年10月号掲載

花よりも花の如く 巻10 2012年3月

 関              メロディ 2011年2・4・6・8月号掲載

 戒              メロディ 2011年10月号掲載

花よりも花の如く 巻11 2013年1月

 戒              メロディ 2011年12月号 2012年2・4・6・8月号掲載

花よりも花の如く 巻12 2013年9月

 戒              メロディ 2012年10月号掲載

 紐頓の林檎          メロディ 2012年12月号掲載 2013年2・4・6月号掲載

 花よりも花の如く 上演記録  描きおろし

花よりも花の如く 巻13 2014年9月メ

 一三五度           メロディ 2013年8・10・12月号掲載 2014年2月号掲載

 この三つのもの        メロディ 2014年4月号掲載

 花よりも花の如く 上演記録 弐   描きおろし

花よりも花の如く 巻14 2015年5月

 この三つのもの        メロディ 2014年6・8・10月号掲載

 休眠打破           メロディ 2014年12月号掲載 2015年2月号掲載

 花よりも花の如く 上演記録 参   描きおろし

花よりも花の如く 巻15 2016年3月

 休眠打破           メロディ 2015年4・6・8・10月号掲載

 Something old Something New メロディ 2015年12月号掲載

 花よりも花の如く 上演記録 肆   描きおろし

花よりも花の如く 巻16 2017年3月

 Something old Something New メロディ 2016年2・4・6月号掲載

 左目の女の子         メロディ 2016年8・10月号掲載

 花よりも花の如く 上演記録 伍   描きおろし

花よりも花の如く 巻17 2017年9月

 キス&クライ         メロディ 2016年12月号 2017年2・4・6・8月号掲載

 玉よりも玉の如く 勾玉 描きおろし

 花よりも花の如く 上演記録 狂言編   描きおろし

 

登場人物 WikiPedia の花よりも花の如く の項にも、詳しい説明があります

榊原憲人(のりと、俗称は、けんと) 主人公 父高志 母冴子の長男

  母方の相葉家が能楽師の家系のため、2歳から子方として修業

榊原西門 憲人の弟 5歳のとき榊原本家に養子に出る

榊原彩紀 憲人の妹

榊原高志 憲人の父 弓道家

榊原冴子 旧姓 相葉冴子 憲人・西門・彩紀の母

榊原鷲一郎 高志の兄 青森在住 神主

榊原高則(じいさま) 鷲一郎・の父 東京で高志や憲人達と同居

榊原涼音(スーちゃん) 高志・鷲一郎の母

相葉左右十郎(そうじゅうろう、じっちゃん、そう先生) 1925年生。能楽師

相葉匠人(たくと、匠先生) 左右十郎の長男、憲人の母 冴子の兄(or弟) 1949年生。能楽師

相葉海人 匠人の長男 1989年生

渡会直継(なおつぐ) 能楽師

渡会直角(なおづみ) 直継の息子、

森澤楽(がく)  憲人の弟弟子

五十嵐陽一   若手能楽師

宮本芳年    狂言師

宮本葉月    女優 ジャズ・ピアニスト 宮本芳年の妹

 

 シリーズは、花よりも花の如く 鬼の栖から始まります。

 主人公の榊原憲人(のりと、けんと)が電車で痴漢に間違えられるという衝撃のエピソードで開始します。 

登場人物が多いので、顔を見分けるのが大変なのですが、憲人は、舞台に出るとき以外は、眼鏡をかけています。

弟で美男子の榊原西門(さいもん)は、眼鏡をかけていません。西門は、叔父で神主の鷲一郎の家に養子にでていたのですが、

2001年の「花よりも花の如く」の冒頭で、事件を起こし、シリーズが開始したときには、実家で謹慎中なので、

長男の憲人と、次男の西門と、妹の榊原彩紀(さいき)は、一緒に暮らしています。

 

 次の星霜を髪に戴きで、憲人の弟弟子の森澤学が登場します。もう一人の美男子として、しばしば登場するのですが、

髪が生まれつきの茶髪という設定なので、黒髪でなければ、学です。

 学は、髪の毛を黒に染めるべきかどうか、悩むのです。

標題の星霜を戴くという言葉は、能の蝉丸にでてきます。

蝉丸の姉は、逆髪といい、髪の毛が逆さまに上に向かってのびるという不幸を背負っていて

我は皇子なれども庶人に下り髪は身上より生ひ上って星霜を戴く。

私は皇女であるが、庶民の境界に下って、髪は体の上から生え上って星から降る霜を受けている。

と、語ります。

  

 次のお能の国の人だからは、お能に携わっている人たちの日常の出来事を題材にしています。

成田さんのマンガには、見開きページの左端に、縦長の枠をとって、成田さんからのメッセージが表示されます。

117頁にもそれがあって、

師匠に原稿をチェックしていただいたところ

師匠 「うん まあ 相葉さんちではこうだってことでいいでしょう」

成田 「あっ はい ん? 相葉さんてだれだっけ? 先生か−!」

忘れている著者  そして  覚えてしまっている師匠

ありがとうございます 師匠と麻紀さんと そのご家族ご親類の皆様&銕仙会の皆さま・・・

とあります。

 巻2の花を描くのも楽じゃないで、マンガの制作には、お能の関係者に、かなりお世話になったことが書かれていて

詳しくは、そのときに、ふれますが、「能狂言が見たくなる講座十撰」情報によりますと、

麻紀さんは、観世麻紀さんで、最初に知り合いになり、師匠は、麻紀さんの兄の観世銕之丞さんだそうです。

 

 次の 大人はなにかをかくしている は、シリーズが始まる2002年の前年にメロディに発表されたものですが、

主人公の憲人の子役時代のエピソードを題材にしています。

多分、似たようなことが実際にあったのでしょうが、基本的に、

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

 

 巻2の最初の遊びをせんとや生まれけむは、能の土蜘蛛で使う蜘蛛の糸が題材です。

標題は、平安時代末期の歌謡集 梁塵秘抄 に含まれている歌で

遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん、遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそゆるがるれ。

遊びをしようと生まれてきたのか、戯れしようと生まれてきたのか、遊ぶ子供の声を聞くと、私の体も自然にゆれ動くよ。

 最後の ゆるがるれ は、動詞 ゆるぐ の未然形に 助動詞 る の已然形が付いたものです。

 

 次のとうとうたらりたらりらは、大阪公演と、松山公演のお話です。

 大阪公演の前に、先生のじっちゃんを養老の滝に連れていくのですが、音の出る滝が見たいということで

急遽、長野県南木曽の牛ヶ滝に行って、ゴーという音を味わいます。

 表題のとうとうたらりたらりらは、お祝いの能であるで、冒頭に、翁が謡うセリフですが、

滝や水の音をあらわしているとされています。

 大阪公演を無事に終え、松山に向かうのですが、色んな出来事があって、どの交通手段でも時間までに

松山にたどり着くことができなくなるというサスペンス仕立てです。

結局は、119頁に書かれている方法で、時間に間に合い、松山公演も無事終える事ができます。

 

 次の風天は、憲人の母親の冴子の高校時代からの友人の法子が、短大卒業後に交通事故で頭を打って記憶をなくし、

当時付き合っていた久高との仲も途絶えてしまうのですが、記憶を取り戻し、沖縄に会いに行くと決心し、

憲人と、法子の娘のそらも付いていくというお話しです。

 成田さんは、能の砧が、妻が夫の帰りを待ちながら死んでしまうというお話しになっているのに対し、

どうして妻は夫に会いに行くという決断をしなかったのか不思議に思い、

会いに行くという話しを思いつかれたそうです。 

 標題の風天は、直接、お能に関係してはいないようです。

法子さんは、柴又でお店をやっていたので、フーテンの寅さんを文字って、そらという名になったのかと、

憲人がそらをいじるシーンがありますが、そらは、奥の細道の芭蕉の同行者の曽良からとったみたいと答えました。

 物語の最後は、以下の文句で終わります。

見上げればいつも 風と天があると忘れずに生きることを ここに誓います 

 

 次の花を描くのも楽じゃないは、2001年の読み切りの花よりも花の如くの作成時のお話です。

原稿完成の31日前に、成田さんが、観世麻紀さんに助けを請う電話をするところから始まります。

結局、麻紀さんと、FAX計160枚のやりとりをして、作品が完成します。

師匠の観世暁夫さんは、2002年4月1日に九世観世銕之丞(てつのじょう)を襲名されました。

 

 巻3の最初 影に形のよりそいて は、能の二人静を合わせて踊る難しさがテーマです。

静の霊が憑いた菜摘女と静の霊そのものが同じ装いで相い舞いします。

憲人が菜摘女で、静の霊を渡会さんが演じるのですが、憲人は、渡会さんが私の影なら逆もまた然りと悩みます。

本番は、憲人にはあんまり合わなかったような気がするのですが、渡会さんはいいんじゃない?と言います。

物語の最後の憲人の言葉は、こうです。

 ときには立ち止まって目を閉じて影の声を聞こう。

 

 次の秘密は、憲人が、創風会発足70周年の記念能に向けて石橋(しゃっきょう)を練習しているとき、

演じたとき、ある能の講演の客席に、西門が芸者姿の女性がいたのが気になります。

憲人が先代が持っていた古い芸者の写真を見せたことから、秘密のお話が始まります。

記念能の本番が終わったあと、憲人が乗ろうとした迎えの車のドアに、女性の影が映ります。

 

 続く 大王 あん玉 あんこ玉 能の淡路で使う勾玉を、本番に間に合わせてなんとか作るというお話です。

青森のじいさまのお宮で、お能をすることになり、イザナミ尊の国土創世を祝う淡路を舞うことになったのです。

青森でスーばあちゃんが、おやつにくじ付きのあんこ玉をもってきます。

青森では、あん玉と呼び、割って中に豆が入っていたら、もう1個もらえるのです。

また、弘前では、大王とよばれていると学びます。

勾玉との玉つながりで、標題になったのだと思います。

 

 最後の花を観るのも楽じゃないは、年間百番の能を見ることを目標にした成田さんの苦労話です。

 

 巻4の最初は、光る軌跡 です。ニューヨークで公演することになるのですが、演目は、恋重荷です。

 女御に一目惚れした老人に、女御が「重い荷を持って庭を回れば姿を見せよう」と言いますが、

荷は重くて持ち上がらず、老人は絶望し女御を恨んで死にます。

老人の死体を見て、女御はその死を悼みますが、老人の亡霊が現れて、女御を責め立てます。

しかし、最後に、老人は、弔いをしてくれるなら、恨みを消し、守り神になろう言って、去ります。

 憲人は英訳の粗筋が超カンタンなのを知り、観客にちゃんと伝わるのかと色々悩むお話です。

 能役者になるかならないか悩んでいた渡会直角は、本番を見て感激し、役者をめざす決心をします。

 最後の日、ホテルのベッドにありがとうの花一輪を残す憲人に、楽がしゃれたまねをするねと言ったとき、

憲人は、語ります。もっといいものを残してきた。それぞれに懸命だった私達の光る軌跡。

 

 次の 天気晴朗なれど波高し は、憲人が京都の骨董店で、若女の面を見つけて買うところから始まります。

渡会直角が宣言通り入門し、直角と楽の二人の内弟子の人間模様が描かれるなか、

憲人は、その面をいつ使うのか悩み、最後は、お蔵入りになるのですが、

やがて思いもかけぬ場面で再び私の前に現れることになるのです という語りで終わります。

 標題は、日露戦争の日本海海戦で出撃するとき、連合艦隊が大本営に、打電した文章です。

敵艦隊見ゆとの警報に接し聯合艦隊は直ちに出動、これを撃滅せんとす。本日天気晴朗なれども浪高し。

 これから起こる事への緊張に充ち満ちた文章です。

 

 巻5の最初は、贈る言葉(ことのは) です。お舞台に出るのはいやだ と言い出した子方の相葉海人くんが、

どう決心するかについてと、能楽師の五十嵐陽一さんが、めでたく結婚式をあげるまでのお話です。

 結婚式場で、謡曲 高砂の一部の四海波が、お祝いうたとして、唱和されます。

四海波静かにて 国も治まる時つ風 枝を鳴らさぬ御代なれや あひに相生の松こそめでたかりけれ

四方の海は静かで、国も治まり、時の風もおさまって枝も鳴らない太平な御代だことよ 相生の松に逢って本当に目出度かったことよ

 憲人は、この歌を、海人にも捧げます。

 

 次の、記憶再生(3回分) は、韓国公演のお話です。1999年10月で、まだ日韓関係は良好でなく、

「日本人は何をしても悪いやつ」と嫌われる時代でしたが、公演は、韓国人の大歓迎を受けて成功します。

 憲人が独り言ちます。

サッカーの日韓共催は2年後 5年後10年後の自分が「韓国」と聞いたとき どんな記憶が再生されるのか

 

 続く 仄暗き夢の底より(1回分) では、憲人が、仄暗い夢の中で、眼鏡の相手から「ケントさんてけっこう〇〇ですよね」と言われ

むっとなって、相手を殴るところで、目を覚まします。何と言われたのか覚えていないのですが、相手は陽一かもしれません。

新しい若手の会を立ち上げようと活躍している陽一に、憲人も、協力しているのですが、

もしかすると 私が私と思っているのは氷山の一角で 水面下には−− と憲人は思います。

私の中に 底知れぬ氷塊が

 

 最後の三聲会GO!は、能界の若手5人が実際に立ち上げようとしている会のお話です。

 

 巻6の最初は、 仄暗き夢の底より(3回分) で、巻5の続きです。

今度も、夢の中で、挨拶して来た相手を、刀でまっ二つに斬ってしまいます。

今度の相手は、城石航さんで間違いありません。直後に本人に会って、あやまったりします。

このほか、弟の西門との関係など、いつくかの人間模様が題材です。

 

 次の 石に願いを(4回分) は、狂言師の宮本芳年の紹介で、憲人がTVドラマに出るというお話。

芳年の妹で、女優かつジャズピアニストの葉月も共演の運びとなります。

芳年とともに、葉月が働くジャズバーに行き、ライブ演奏を聴きます。

その曲名が、「星に願いを」でした。憲人が出演を決めたあと、製本した本式のシナリオが届きます。

ドラマのタイトルは、「石に願いを」で、憲人は、変なタイトルとつぶやきます。

 

 最後の 私をジャズ・バーに連れてって は、葉月さんが出ているようなジャズ・バー2店を、成田さんは

読者に紹介したかったようです。

 

 巻7は、石に願いを(6回分) で、巻6の続きです。最初に何人かの出演者と会ったあと、TVドラマの内容がはじまり、

憲人は、岡崎藤哉となります。

 

 巻8は、石に願いを メイキング です。最後の最後に、TVドラマの主役日系アメリカ人のレニー役を演じた

俳優藤井琳から入門を志願されます。

 

 巻9(5回分)と巻10(4回分)は、 です。弟子となった琳と、葉月が加わって、新たな人間関係が始まります。

標題のは、巻8の32頁で行った和歌山の道成寺の掛け軸に書かれていた字で、「かん」と読み、

関所の関であり、難関の関であり、日常の生活にも関はあることを言っています。

憲人は、葉月と奈良の春日大社に旅行し、葉月は、友達の麻生ミヤのところに泊まりきすが、

ミヤの兄の麻生由規が、会社を辞めて東京に出て来て、新たな人間関係に加わります。

 

 巻10の最後(1回分)と、巻11(5回分)、12(1回分) は、 です。

  は、憲人のじいさまが、Tシャツに描くために練習していた字です。じいさまの解説では、

戒は、戒め の意ではなく、考え方が逆で、仏教では、むしろ、しないといけないことと考えるのだそうです。

憲人は、真面目で頑張り屋さんで、物事を色々と引き受けるので、日々の生活が大変になっていくのです。

 先程の麻生由規さんにも頼まれて、講師の仕事を引き受けます。

 また、憲人は、お酒に弱く、ある晩、酒を飲んだ後、高尾山をうろつき、寝てしまいます。

真っ暗な中、目が覚めて、居所を探っている時に、暗闇を犬を連れて散歩する武内望に出会い、助けてもらいます。

彼は、目が不自由で、マッサージ業を営んでいて、憲人もその後、しばしばお世話になりますが、

また、バイオリンが上手なことから、葉月もからんで、いろんな物語がうまれます。

 

 巻12の残りは、紐頓(ニュートン)の林檎 です。憲人は、ある薪能で、ゴシック・ロリータ姿の小野寺花梨を見かけます。

その花梨が、藁人形をかかえて丑の刻参りするのを目撃して、物語が始まります。

 最後のシーンで、花梨は、バカー!! と大声で叫び、憲人から習った鶴亀の文句を謡います。

髪を切ってイメチェンした彼女に、次の言葉が捧げられます。

彼女は ただまっすぐに人を愛した だからこそ傷つき 苦しみ だけど 落ちてから 甘くなるりんごもあるんだよ

 

 巻13の最初は、一三五度 (4回分)です。135度というのは、明石の東経で、明石が舞台となっているのですが、

21頁に成田さんのメッセージがあり、急遽内容変更しないといけなくなり、かなり慌てて、結果こうなっているが、

初めどんな計画だったのか記憶も曖昧と、おっしゃっているので、内容について深入りしないことにします。

 

 巻13の残り (1回分)と、巻14の最初 (3回分)は、この三つのもの です。

葉月がストーカー被害にあっていることがわかるのですが、話は、結構不思議な展開をします。

標題の この三つのもの が何かは、話の最後に、ハイネの詩から取ったと 語られます。

「まことの恋と友情と智恵の石と この三つのもの を世間では宝だと言いそやす。

 私はずいぶんと捜すことはしたのだ。 が、ついぞ一つもお目にはかからぬ」

 

 巻14の残り (2回分) と、巻15の最初 (4回分) は、休眠打破 です。

標題の意味は、楽が憲人に語ります。

桜の花芽は夏のうちにできるんですが、休眠状態になってるんです。

その後一定期間寒さにあたると目が覚めて開花の準備をはじめるんだそうです。

これが「休眠打破」 今年は2月が割合寒いので3月が暖かかったら一気に開花が進むかも

 バイオリンを弾く武内望には、いろんなお誘い話がきていて、この流れに乗ってしまっても、

バイオリンが楽しくなくなったらどうしようと悩んでいたのですが、

憲人に「まさか流れに乗らないつもり」と聞かれて、「乗ります」と答えます。

 佐原で教えている子供能も、いよいよ佳境に入ります。

 前の話のストーカーの幼馴染だったシオちゃんが、四国88ヵ所のお遍路の旅をする様子がバックグラウンドに流れます。

 

 巻15の残り(1回分)と巻16の前半(3回分)は、Something Old Something New と英語のタイトルです。

結婚式で、何か古い物、何か新しい物、何か借りた物、何か青い物の4つを身に着けるという習慣があり、

このSomething Four 副題 花嫁の4つの嘘 というドラマの花嫁役を葉月が演じていることが、このタイトルの由縁ですが、

憲人の弟子の女性の実家のゴミ屋敷の掃除を憲人が手伝いながら、棄てられない古い物の思い出を語り、

最後の最後に、何かあたらしいものも、生まれてきます。

 

 巻16の残りは、左目の女の子 です。森澤楽は、霊感を持っているのですが、赤ん坊の頃から

右目をつぶると左目に見える女の子とずっと一緒に育ってきました。

その女の子が、憲人の妹の彩紀だったのです。

 

 巻17は、キス&クライです。最初に、芭蕉の奥の細道の冒頭が流れます。

月日は百代の過客にして行かふ年も又旅人なり。
月日は永遠に過ぎ行く客であって、行きそして去る年も、又、旅人です。

舟の上に生涯を浮かべ馬の口をとらえて老をむかふる物は
船乗りとして生涯船の上で浮かび、馬子として馬の轡を引いて、老いを迎える者は、

日々旅にして旅を栖(すみか)とす  毎日が旅であって、旅を住処としているのです

 タイトルは、フィギュア・スケートで選手が採点を待つブースについた名前です。

78頁で、憲人は、彩紀に、クライはどっち? 嬉し涙? 悔し涙? と聞きます。

 子供能の本番が近づきますが、渚ちゃんのお母さんが本番を観に来れるかどうかで、渚ちゃんの心が揺れます。

誰にでも優しい憲人に、葉月は、それ もう やめて! キライ!! と、キレます。

 

 単行本の目次を見ると、最後に、附祝言(つけしゅうげん) とあります。お能の番組の最後に、囃子は無しで

地謡いだけで謡う短い謡のことです。達筆で書かれているので、読めませんが、能『高砂』の最後の文です。

千秋楽は民を撫で 萬歳楽には命をのぶ 相生の松風 颯々(さつさつ)の聲ぞ楽しむ 颯々の聲ぞ楽しむ

千秋楽の管弦は民をいたわり、萬歳楽の舞は主君の命を延ばす 相生の松から風が 颯爽と吹く音を楽しむ

楽しむのは、松風の音だけでなく、舞の袖がひるがえって立てている音も含めていることでしょう。

民を撫で は、理世撫民(世を治め民をいたわること) からきています。

相生の松とは、雌株・雄株の2本の松が寄り添って生え、1つ根から立ち上がるように見えるものです。

高砂神社は、相生の松で知られています。

颯々とは、風がさあっと音を立てて軽く吹くさま で、颯爽 は、勇ましくさわやかな感じです。

 

参考

art drops インタビュー 2009 vol.1

  成田美名子/漫画家 −前編− http://www.artdrops.jp/minako_narita_1.html

  成田美名子/漫画家 −後編− http://www.artdrops.jp/minako_narita_2.html

the能.com ESSAY 私と能  水辺と火と能舞台  成田美名子

  http://www.the-noh.com/jp/people/essay/004narita.html

 

 

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