中岡毅雄 NHK俳句 俳句文法心得帖 (2011) 

2023.09.30

 本のタイトルは、俳句文法ですが、本書は、文語文法を取り扱います。

俳句には、文語俳句と、口語俳句が存在しますが、ここでいう文語は、昔の日本語口語は、現代の日本語という意味です。

しかし、昔の日本語には、古文という正式の名前があります。

正確には、文語とは、書き言葉という意味で、口語とは、話し言葉という意味なのです。

明治時代に、言文一致運動があったため、現代日本語は、書き言葉と話し言葉の性格を兼ね備えていますが、

現代日本語は、基本的には、口語で、厳密な文語ではありません。

これに対し、古文は、基本的には、書物に書かれた書き言葉で、必ずしも、日常的に使われる話し言葉ではありません

古文は、多種類の助動詞を用いて簡潔に表現できるので、格調が高いという利点を有しますが、文法は複雑です。

これに対し、現代日本語は、助動詞の数をかなり減らして、文法は簡単になりましたが、表現能力が下がり、文章が長くなってしまいます

俳句や、短歌のように、字数制限がある場合は、書き言葉の文語を使ったほうが、有利で、格調の高さを誇ることができます

」とか「かな」といった助詞は、口語俳句でも便利に使われているのですが、
けり」などの助動詞は、口語俳句には、あまり使われていません。

 本書の9頁にも高浜虚子の代表作「帚木に影といふものありにけり」という句が、取り上げられています。

帚木には、影というものがあったんだなあ と詠嘆する句で、助動詞「けり」が大きな働きをしています

しかし、これを口語俳句で歌うと

帚木に影というものありました」となり、詠嘆の気持ちを表すことができず、平凡な印象しか与えません。

 過去の助動詞「けり」の語源は、過去の助動詞「き」+動詞「あり」なので、「ありにけり」は、「あったのです」という意味から、「あったということです」という間接体験や、「あったのですね」という詠嘆を表すようになりました。

 私は、文語訳聖書の格調の高さが、大好きです。

初めに言葉あり、言葉は神と共にあり、言葉は神なりき。

 また、石川啄木の文語短歌の格調も大好きです。

かなしきは 飽くなき利己の 一念を 持てあましたる 男にありけり
(悲しいのは 飽きることない利己の一念をもてあましている男であったのだなあ)


 次の世代に、文語が、忘れ去られないことを、切に祈っています。


目次

序章 俳句と文語文法
1 文語文法への誘い
2 品詞を分類してみよう
3 「五十音図」と「活用形」

第一章 動詞
1 変格活用 ナ行・サ行変格活用動詞
2 変格活用 カ行・ラ行変格活用動詞
3 上一段・下一段活用動詞
4 上二段活用動詞
5 下二段活用動詞
6 動詞を句に詠み込むとき

第二章 形容詞・形容動詞・音便
1 形容詞 ク活用
2 形容詞 シク活用
3 形容動詞 ナリ活用・タリ活用
4 音便 イ音便
5 音便 ウ音便・撥音便
6 音便 促音便

第三章 助動詞〜過去・完了・受身・使役・打消
1 過去の助動詞「き」「けり」
2 完了の助動詞「つ」「ぬ」
3 完了の助動詞「り」「たり」
4 受身の助動詞「る」「らる」
5 使役・尊敬の助動詞「す」「さす」「しむ」
6 打消の助動詞「ず」

第四章 助動詞〜推量
1 推量の助動詞「む」「むず」
2 推量の助動詞「む」「むず」
3 現在推量の助動詞「らむ」・過去推量の助動詞「けむ」
4 推量・当然の助動詞「べし」
5 打消推量の助動詞「じ」「まじ」
6 推量の助動詞「めり」「なり」「らし」と「まし」

第五章 助動詞〜断定・その他
1 断定の助動詞「なり」「たり」
2 希望の助動詞「たし」「まほし」・比況の助動詞「ごとし」
3 間違えやすい助動詞
4 間違えやすい助動詞

第六章 助詞〜助詞とはなにか・格助詞・副助詞
1 助詞とはなにか
2 格助詞 「の」「が」「つ」
3 格助詞 「に」「へ」「を」
4 格助詞 「して」「にて」「と」「より」
5 副助詞 「だに」「すら」「さへ」
6 副助詞 「まで」「のみ」「ばかり」他

第七章 助詞〜係助詞
1 係助詞 「係助詞」とは
2 係助詞 「ぞ」「なむ」「や」「か」
3 係助詞 「こそ」
4 係助詞 「は」「も」

第八章 助詞〜接続助詞・終助詞・間投助詞
1 接続助詞 「ば」
2 接続助詞 「と」「とも」「ど」「ども」「が」「ながら」
3 接続助詞 「で」「て」「に」「を」「して」
4 終助詞 「な」「そ」「ばや」「なむ」「もが」「もがな」他
5 終助詞 「も」「かし」「か」「かも」「かな」
6 間投助詞 「や」「よ」

 

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