中島義道 人生を半分降りる (2000) |
2016.6.24
定年になったら読もうと買いためてきた本が山積していて、この本もその一つです。
著者は、1946年生まれで、この本の初出時の1997年には、50歳を少し超えた中年の盛りの時期に
人生を半分降りるというのは、少し早過ぎると思うのですが、序章の「あなたはまもなく死んでしまう」は面白く読みました。
著者は、たくさん本を書かれる方で、近くの図書館にも、「人生に生きる価値はない」「哲学者というならず者がいる」など
問題発言的なタイトルの本など、たくさんありました。へんてこじいさんの偏屈発言として読むと、結構面白いので、
それらについても、それぞれの頁を作って紹介したいと思います。
まず、序章の「あなたはまもなく死んでしまう」は、第1節の「自分のための時間を確保せよ」で始まります。
自分のための時間とは何かを説明する前に、第6節の「実在論者と唯名論者」の説明をしたいと思います。
実在論者 (realist) と唯名論者 (nominalist) は、西洋哲学の普遍論争で議論されている概念で、中島さんによると
普遍 (例えば、概念としての人間) と 個物 (例えば、個々の人間) のどちらが実在するかと問われて、
普遍が実在すると考えるのが実在論で、個別が存在し、普遍はただ名だけだとかんがえるのが唯名論だそうです。
さらに、
実在論者は、日本民族の絶滅とか人類の滅亡は大事件だけれど、自分がまもなく死ぬのは大した事件ではないと考え、
唯名論者は、自分が死ぬことこそ何にもまさる大事件で、人類の死も世界の滅亡もどこ吹く風と考える。
と説明します。
この世の中には、実在論者のほうが、圧倒的に多いのですが、著者の中島さんは、唯名論者だそうです。
「私」という個物が死んでしまうと、さまざまな個物と出会う窓口である「私」がなくなってしまうので、個物はことごとく消え去り、
あとは自分の葬式であろうと、孫の成長であろうと、21世紀であろうと、人類の滅亡であろうと、「ただの名だけ」という実感なのだそうです。
普遍論争というのは、いつかじっくり考察してみたいと思いますが、当面は、私は、実在論にくみします。
確かに、お亡くなりになる人にとっては、その人が見てきた世界は、彼の死とともに消滅するのですが、
それはその方にとってだけのことで、生き残っている我々には、世界は、引き続き存在しています。
私たちは、人類という種別に属する生物であり、生命です。
生命は、個々の個体は死にますが、子孫を残すことにより、種として存続するというドラマの中に生きています。
単に存続するだでなく、遺伝子の改変と、厳しい環境での生存競争で、適者が生き残ることにより、遺伝子的に進化します。
人類は、このゲノム (genome) による進化に加えて、言葉や社会システムなどの文化を構築することによっても進化しました。
これをミーム (meme) と呼んでいます。
先日、テレビで面白い話を聞き、感動しました。昔の(例えば1万年前の)人類は、遺伝子的には、現代人とそんなに違いません。
その人類が、もし現代に生まれて、言葉を学ぶことができたら、文化も理解して、立派な現代人になれるかもしれないのです。
我々が構築する文化は、かくも素晴らしいものなのです。
ですから、私は、実在論者です。私が死んだあとも、人類は続きます。
実在論者は、自分が所属する組織 (国家、社会) の中で、一生懸命働きます。
しかし、要職についている人たちは、ひとつの共通の錯覚に陥っていると、中島さんは指摘します。
自分がいなければ、その組織がメチャクチャになってしまうと思っているかもしれないが、
「あなた」がいなくとも、あなたの所属している組織はうまく機能するのですよという指摘です。
そして、自分の時間 (余暇) を確保し、まもなくやってくる「死」や、これまでの自分の人生について、トコトン考えなさいと指摘します。
中島さんは、首都移転問題などを審議している老人達を見ると、もうじき死んでしまうのに、死後に実現されることの審議に
膨大な時間を割いていることに、それでいいのかなあと不思議に思うのだそうです。
さて、みなさんは、いかがお考えでしょうか。確かに、組織の中で働いているときに、自分がいなくても、
誰かほかの人が代わりをすることは事実です。しかし、だからといって、自分がやらなくてもいいということにはなりません。
先日、ある女優が、語っていました。ある脚本を読んで、この役は、是が非でも、私がやりたい、
ほかの人にはやって欲しくないと思うのだそうです。彼女にとっては、女優として生き抜くことが自分の人生です。
あなたは、まもなく死んでしまうかもしれないけれど、社会において、与えられた仕事があるのであれば、
自分のためではなく、その仕事のために働くことは、間違っているとは思えません。
ホームページアドレス: http://www.geocities.jp/think_leisurely/
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