三田誠広 光と陰の紫式部 (2023)

2023.12.14

 来年1月7日から、新しい大河ドラマ光る君へ」が開始し、紫式部の生涯が、茶の間の話題になることを期待しています。これを機会に、色んな紫式部像が描かれると思いますが、私は、三田誠広さんの提案する紫式部像に一番の親近感を覚えています。

 三田誠広さんの新しい紫式部像は、2018年の「源氏物語を反体制文学として読んでみる」という新書本で提案されました。

 紫式部は、藤原為時の娘ですが、京都で生まれ育った屋敷の斜め隣に、左大臣源雅信(まさざね)の住む土御門殿(つちみかどどの)がありました。

 左大臣の正室の藤原穆子(あつこ)は、紫式部の父の従姉弟という親戚関係だったので、紫式部は、小さい頃から、土御門殿に出入りしたのではないかというのが、三田誠広さんの推理です。

 この本で、紫式部は、香子(かおりこ)という名前で登場しますが、第二章 源氏の物語を書き始める で、香子は、穆子に相談して、土御門殿の女房に加えてもらいます。

 土御門殿には、女房が大勢いて宮中のような生活をしていました。若き紫式部は、土御門殿で、伊勢物語を読み、若紫の紫の上の話をつくり、女房達に語り聞かせて、文才を高めていったのではないでしょうか。

 紫式部は、もっと年をとってから源氏物語を書き始めたというのが定説になっていますが、瀬戸内寂聴さんも、紫式部のように文才のある子は、若い頃から物語を書いていたに違いないと言っています。

 左大臣の土御門殿にある沢山の物語を読んで、自らも物語を作り、女房達に聞いてもらいながら、文才を高めていくという環境が、紫式部を育てたという説に、私は、もっともらしさを感じます。

 香子が、女房として出仕したとき、長女の倫子(みちこ)と対面しました。倫子は、香子とは又従姉にあたり、20歳を過ぎていて、母親の穆子に代わって邸内を仕切っていました。

 その土御門殿に、右大臣藤原兼家の娘で、一条帝の母の詮子(あきこ)が訪れ、弟の道長を婿に迎えてくれと頼みます。

左大臣の源雅信は、摂関家から婿を迎えることに反対でしたが、正室の藤原穆子の説得に負け、道長が入り婿として、土御門殿にやってくることになります。

 道長は、土御門殿にやってきて、式神の香子に再会したとき、「式神さま、そんな目で見つめないでください。わたしもこれからは、源氏一族の一人になるのですから」と言います。

 紫式部の生涯は、小説になるような華やかなものではないため、三田誠広さんは、この小説に、かなりのフィクションを加えました。

 第一章 不可思議な未来が展(ひら)ける で、香子は、陰陽師の安倍晴明に天門道を学び、式神となり、他の式神や鬼神と対話して未来を知ったり、精神が宙を飛んで移動したりできる超能力を得ます。

 第三章 彰子入内と怨霊との対決 や、第四章 天満宮上空に北辰が輝く では、「鬼滅の刃」の吉原遊郭での戦いのような場面が登場します。紫式部は、清少納言が引退したあと、宮中に出仕したため、実際に会ったことはないはずなのですが、清少納言が仕えた定子が、皇子を出産する場面に、香子が飛んで行き、清少納言と対峙する場面が描かれています。

 タイトルの「光と陰」の意味について、三田誠広さんは、創作ノートの中で、紫式部を陰陽師にしたので、その陰陽をタイトルにしたとおっしゃっています。

 さて、三田誠広さんは、新書本で、反体制文学と言っていますが、藤原氏全盛の時代に、源氏の御曹司が親政を行う反体制文学が、なぜ、人気を得て、後世に生き残ることができたのでしょうか。

 その点を、三田誠広さんに直接質問してみたところ、「キーワードは荘園整理です」と教えてもらいました。

 道長自身は生きている間に名義貸しの荘園を増やして全盛時代を築くのですが、長女の彰子は、母の倫子や女官の紫式部の影響を受けて、荘園制度に批判的だったのです。

 終章 帝の夢を女院が引き継ぐ で、彰子が、夫の一条天皇が果たせなかった天皇による親政を、息子や孫が天皇になった時に、女院として君臨した様子が語られます。紫式部は、彰子側について、参謀の役割を果たしました。この事情については、新書本よりも、この小説の方が、詳しいと思います。

 源氏の御曹司が活躍する源氏物語は、道長が、彰子を一条天皇に気に入ってもらうために、一条天皇が興味を示した「源氏物語」を、紫式部に、どんどん書いてもらったという事情があります。

 道長は、藤原氏の三男坊として、左大臣の源雅信の土御門殿に入り婿となり、二人の兄が亡くなって、藤原氏の棟梁の役を果たすようになって以後も、土御門殿に住み続けました。

 道長は、複雑な立場にいたようですね。そんな道長の実像が、今後、さらに史実が発掘されることにより、詳しくわかってくることを期待しています。

 

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