松岡正剛 ちょっと本気な千夜千冊虎の巻 (2007) 

2016.10.14

 松岡正剛の千夜千冊という驚異的なウェブ連載のサイトがあります。

長寿であるだけでなく、毎回の分量が多いので、とてつもなく大量で、しかも良質の情報が満載のサイトです。

 松岡さんは、2000年3月23日から、連載を始められました。

土日は休んで週 5日は、一日一冊、書物案内をしようという、一大計画です。

  

 記念すべき千夜は、2004年7月7日に達成しました。そして、その後も、連載は継続し、

本日現在では、2016年10月14 日更新の1621夜が、最新です。 ただただ、敬服するばかりです。

  

 さて、開始から三年半たって、800夜になり、千冊に達するのが見えてきたころに、

書籍にしようという話になり、順番を並べ替え、書き加え、削り落とし、附記をつけて、

全七巻+特別巻のタテ組として出版することになりました。

 全体の5割くらいは、手直しされているそうです。

  

 ウェブで横書きするときは、短文的で、改行も多く、ブログを書くように、気持ちも軽いのですが、

タテ書きの書物では、タテの行の長さが長くなり、見開き両ページのゲラを見ながら修正を加え、

丹念に文脈を造る作業を行っていくと、かなり違ったものに、出来上がるようです。

 また、千夜を超えた頃に、胃癌の手術を受けることとなり、体調の回復を待っている間に冊数が増え、

1144冊となり、2006年に求龍堂から出版されました。

 

 各巻のテーマは、以下のようになりました。

第一巻 遠くからとどく声  少年少女のころの本がセピア色にいまよみがえる

第二巻 猫と量子が見ている  カンブリア紀からホーキングまで、「読書する科学」をひもといていく

第三巻 脳と心の編集学校  本は記憶と再生のための編集装置である

第四巻 神の戦争・仏教の鬼  ドストエフスキーとフロイトが投げかけた謎

第五巻 日本イデオロギーの森 この国の奥を見るために七つの読書モデルをつかってみる

第六巻 茶碗とピアノと山水屏風  古今東西のアーティストごとに本を読む

第七巻 男と女の資本主義  寛一お宮からディートリッヒまで・フェミニズムからネット市場まで

特別巻 書物たちの記譜、解説・索引・年表

 各巻平均1300頁という、とてつもない頁数の本です。全巻セットで、95000円+税 という定価となりました。

 

 そして、その内容紹介と宣伝を兼ねて、本書の出版が計画されました。著者が、インタビューに答えるという形を

とっていますが、何故か名前を伏せているインタビュアーは、20代後半の麗しい女性だそうです。

 

 インタビュー最初のところで、千夜千冊は、書評ではないことが、強調されます。

書評は、基本、新刊書の批評なのですが、千夜千冊のうち、かつて読んだ本は七割で、

新たに読んだ三割のうち、新刊書は、30ないし40冊程度だそうです。

 七割くらいの本を再読すると、かつての読書の記憶とは、様相や雰囲気や意味が違うということが

いくらでもあり、そこを書くのが「千夜千冊」だそうです。

 二回目読んでも、一回目よりは速く読めるので、再読は、絶対にお薦めだそうです。

映画でも、二度目に見ると、カメラワークや、脚本家の意図や、背景セットの細部が見えてくるように。

 

 さて、本書の「あとがき」を、松岡さんは、以下の口調で語り始めます。

 

 本というものは、誰でも入手できるし、誰もがいつでも読めるものですが、さていったい

読書によって何を経験したのかと問われてみると、案外わかりにくい印象があります。

何が書いてあったかを再現してみようと思うと、すっかり忘れていたり、思い出そうとしても

著者が書いていることと自分が感じたことがまぜこぜになっている。

(中略)

多くの人にとって読書経験は食べ終わった食事や消えやすいシャボン玉のようなもので、

なかなか残ってくれない。ぼくも長らくそうでした。

 そこであるときから、ぼくは自分が読んできた本をめぐって、なんらかの感想を書くということを課してきた。

たんに内容をかいつまむというのではなく、批評をしたり文句をつけるとしうのでもなく、

その本にどのようにめぐりあい、いつどのような状態で読んだのかということ、さらには

本と本とのつながりに思いを致すということを綴ってきたのです。

 

 その過程で、松岡さんが体得したことを、短くまとめると以下のようになります。

読書は、著者と読者と編集者と版元とブックデザイナーたちとの共同作業で、だからこそ、

本には、装丁やタイトル、目次や見出し、図版や写真がついている。それどころか、

さまざまな本を次々にまたいで著者と著者とがつながっている。それも時代や分野をまたいでつながっている。

読書行為そのものは、一人だけれど、そこでおこっていることはもっと相互的であり、多層的なのではないか。

 

         

ホームページアドレス: http://www.geocities.jp/think_leisurely/


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