松本清張 清張通史1 邪馬台国 (1976,1986) 

2021.05.06

 松本清張(1909-1992)は、1976年1月1日から1978年7月6日まで、東京新聞に清張通史を連載し、

1976年から1983年にかけて全6冊の単行本として刊行しましたが、

1986年3月から1989年6月にかけて、改稿を加えて、全6冊の講談社文庫版を刊行しました。

 私が購入したのは、文庫版の清張通史1で、タイトルは邪馬台国です。

読んで、さすがに、松本清張と感心しました。

 文庫裏表紙の短い解説は、本書の内容を以下のように語ります。

女王卑弥呼は殺害された−。北部九州は魏のコロニーであった−。

過去の学説研究に詳細な検討をくわえ、新しい邪馬台国像をうちたてるべく、

著者はユニークな史眼をもって果敢に挑む。

本書には邪馬台国の真実の相が、鮮明な印象と迫力を伴って浮き彫りにされている。

 本書の中で、コロニーという言葉を使っている箇所は、まだ、見つけそこなっていますが。

似たような記述は、いくつかあります。

137頁

 北部九州の朝鮮海峡沿岸地域が、前漢から新・後漢・公孫氏・魏とひきつづいて

楽浪・帯方二郡の直接的な支配下にあったことについては、いくつかの傍証があげられると思う。

 しかし、誤解のないようにつけ加えれば、そうはいってもこの地域が朝鮮のように

漢や魏の軍隊によって征服されたのでもなければ、占領されたわけでもない。

その關係はあくまでも朝鮮南部や西北部との交易が主体であって、その延長線上に

郡とその本国にたいする北九州の服属があったのである。これは再三書いた。

  北九州の倭人と呼ばれていた国や人達は、朝鮮半島を通して、中国と交流していました。

私としては、北九州が、日本の他の地域とは、どういう交流をしていたか知りたいところですが、

もっと知りたいのは、朝鮮の南岸に、という国があったということです。

 朝鮮の南側には、辰韓、馬韓、弁韓という国々があり、倭という国も共存していたという説なのですが、

倭という国が、朝鮮半島にあったということは、まだ、韓国や北朝鮮には、受け入れられていないようです。

 松本さんは、以下のように書いておられます。

67頁

 南朝鮮に倭種の居住地帯が「倭」として国土のように存在し、

日本列島のは「倭人」と表記されていることが歴史書にもぼつぼつ書かれるようになった。

(中略)

 先年、朝鮮民主主義人民共和国の歴史家金錫亭が高松塚の調査で来日したとき、一夕、

氏と会談する機会があり、そのとき、わたしは、「倭・倭人」書き分け論を述べた。

 ところが金は首をかしげ、「そのご意見はわが国の史学界で宿題として考えておきましょう」といわれた。

もちろん、その後、北朝鮮の史学界がわたしの考えを検討されたということはきかない。

(中略)

 また、韓国の考古学者金元龍に会ったときも、この話をしたが、やはり賛成を保留された。

 そういうわけだから、わたしのこの考えを日本の学界がかんたんにみとめるとは思っていない。

もっとも上田正昭は、わたしのこの考えを「注目すべき見解」と書いている。

(中略)

 南朝鮮の「倭」も、日本列島の「倭人」も、その住民はともに倭種であって、同一民族である。

 それだけでなく、辰韓人も、弁韓人も、馬韓人も、小異はあるがほとんど同じ種族である。

(中略)

 すると、倭種もまた三韓人と同種であったといえるのである。

「倭人」と書かれた北部九州の住民もそうである。

 朝鮮の人達にとって、南朝鮮に倭という国があることだけでも、受け入れがたいことなのでしょうが、

その倭という国が、外国人の国ではなくて、人種的に同種であることは、さらに受入難いと思われます。

 

 卑弥呼の死について、魏志倭人伝には、「卑弥呼以って死す」とあるのですが、松本さんは、

以下の説を考えておられます。

253頁

 「以って」を「もって」では意味をなさないので、「よって」と訓む。「よって」の用例は少なくない。

 したがって、ここを

「張政が檄をつくってこれを告諭したので、よって(そのために)卑弥呼は死んだ」と読む。

(中略)

  張政等が倭国にきたときは、すでにおそく女王国は狗奴国との戦いに敗れた直後であったろう。

 いわゆる女王国聯合の諸部族の首長たちは、敗戦の責めを卑弥呼に帰し、

まさにこれを殺すべしと一致していいあわせた。(中略)

張政は郡の権威によってその旨を卑弥呼に檄にして送り、諭し告げた。

よって卑弥呼はそれを受けて死んだ(殺された)のであろう。

 卑弥呼の死の年と、前年に、日食が発生したという事実を、松本さんは、知らないようです。

私は、日食は、卑弥呼の死に、大きく関わっていると思っています。

 この本には、松本さんの推理が、ほかにもたくさんありますので、今後、さらに

紹介していきたいと思います。

 

 

 

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