松田卓也 人類を超えるAIは日本から生まれる (2016) 

2016.8.27

 松田さんのこの本は、人工知能開発の現在と近未来について、わかりやすくまとめていますので、お薦めです。

 

 第2章 人工知能ブームの行方 は、副題が ディープラーニングの成功と限界 です。

今世紀に入って、ジェフリー・ヒントンが、ニューラルネットワークのレイヤー (階層) を何段にも重ねれば、

高度な推論ができることを示しましたと紹介したあと、機械学習の第一段階の学習フェーズに膨大な時間がかかり、

画像認識なら1000万枚の写真、音声認識なら何十時間も声を聞かせたりしていて、能率がわるい。

かつて人工知能研究の主役だったルール型のアルゴリズムも、IBMのワトソンでは、活躍しているので、

今後どの手法が人工知能のつぎの突破口を開くかは、簡単にはわかりませんと締めくくります。

 

 第3章 トップランナーは誰か で、世界の人工知能の開発競争の様子が解説されますので、一部を簡単に紹介します。

 

 まず、グーグルは、2014年にディープマインドという英国のベンチャーを買収しました。この会社の開発した人工知能に、

1980年代に はやったスペースインベーダーやブロック崩しなどのゲームをやらせると、最初のうちは下手ですが、

だんだんゲームのコツを覚え、裏技まで発見してしまいます。デモ動画は世界を驚愕させ、BBCのニュースにもなりました。

 この会社は、グーグルに買収されるとき、人工知能を軍事利用しないための倫理委員会をつくることを条件にし、また

「20年ロードマップ」をつくり、じっくりと腰を据えて開発に取り組もうとしているそうです。

 

 IBMは、ワトソンの医療分野での活用を目指しているほか、シナプスというプロジェクトで、深層学習のニューラルネットワークの

アルゴリズムのハードウェア化を計画していて、2014年に最新版のTrueNorth が公開されました。

TrueNorth は、チップ単体では学習できないので、データが与えられるたびに少しずつ賢くなるオンライン学習ができないのが、欠点です。

 また、IBMは、ジェフ・ホーキンスと共同で、Cortical Learning Center という部門を新設し、ホーキンスが開発した

階層的時間記憶 (Hierarchical Temporal Memory) 理論の、皮質学習アルゴリズム (Cortical Learning Algorithm) をベースにした

人工知能アルゴリズム (HTM-CLA) の開発を目指しています。

 

 フェイスブックは、2013年に人工知能研究所を立ち上げ、畳み込みニューラルネットワーク技術を開発したヤン・ルカンを所長に迎えました。

ルカンは、この研究所での研究は基本的にオープンにすると言っているそうです。

 

 バイドゥー (百度) は、グーグルに相当する中国の会社で、2014年に、シリコンバレーに人工知能研究所を開設し、

グーグルの猫の実験を行ったアンドリュー・エンを所長に迎えました。バイドゥーは、2015年に、ILSVRC の画像認識コンスストで

不正を行い、1年間の出場停止処分となりましたが、先行するグーグルを真剣に追いかけています。

 

 ジェフ・ホーキンズは、インドからきた学生のディリーブ゜・ジョージと共同で、2005年にヌメンタを設立し、HTM理論の開発に取り組みました。

ジョージの作ったHTM理論のアルゴリズムは、ゼータ1アルゴリズムとよばれ、株の予測や音声認識など比較的実用的な研究がなされていますが

ホーキンズは、2010年に、より大脳生理学的観点にたった HTM-CLAに転換しました。

IBMのウィルケという大御所エンジニアが、これを支持して前述のように、IBMで研究を開始しました。

 

 ジョージは、ヌメンタをやめて、フェニックスという人と、ヴァイカリスという会社を作ります。この会社は、HTM理論を拡張したモデルを

研究していると思われますが、2028年までは研究を非公開のステルス・モードで進めるようです。

 

 現在のところHTM理論は、人工知能研究の傍流ですが、松田さんは、この傍流こそ、主流になるのではないかと思っておられます。

 

 松田さんは、日本の研究開発状況についても解説されていますが、それは原書を読んでいただくとして、一つだけ

斉藤元章さんのペジーコンピューティングというハードウェア開発プロジェクトについて簡単に紹介します。

開発されたペジー・プロセッサを搭載したスパコンは、2015年6月の「グリーン500」という省エネ・スパコンコンテストで、

1位から3位を独占するという快挙を成し遂げました。

斉藤さんには、ニューロ・シナプティック・プロセシング・ユニット (NSPU) という新プロセッサを開発し、

1000億個のコアと、100兆個のインターコネクトをもった、大きさ0.8リットルのコンピュータを10年以内につくるという計画があります。

これは一人の人間の脳に相当するニューロンとシナプス結合をもったコンピュータができるということを意味します。

松田さんは、日本、いや世界の人工知能開発の将来は、このNSPUにかかっていると確信していると結びます。

 

 最後の第7章は、この斉藤さんとの特別対談です。興味あるかたは、是非、お読みください。

 

         

ホームページアドレス: http://www.geocities.jp/think_leisurely/


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