小坂流加 余命10年 (2007,2017)

2023.10.22 

 テレビの金曜ロードショーで、映画版「余命10年」を見て、原作があることを知り、読みました。
主人公たちの職業が変えられていて、違った印象なので、映画版に感動した方は、原作の方も、是非読んでみてください。

 原作者の小坂 流加(こさか るか、 1978年7月4日 - 2017年2月27日)さんは、大学生の頃、難病を発症し、余命10年と宣告されます。小説と映画の主人公、茉莉(まつり)は、短大の20歳の時に、難病を発症し、余命10年と宣告されます。2年間の入院生活後に退院し、すでに卒業した短大時代の友達の支えで、残された人生を歩みます。小説の茉莉は、マンガ家志望、映画の茉莉は、小説家志望です。小坂流加さんは、小説家志望で、自分の闘病生活をもとに、この小説を書き、自費出版として出版社に持ち込みました。編集者は「重いお涙頂戴モノにはしない」という方向性で小坂さんと書籍化を進め、無事出版にいたり、私達の心に、永遠に残ることになりました。

 闘病生活が始まったときは、もう恋はしないと心に決めた茉莉ですが、和人とめぐりあい、生活が大きく変化します。

 全部で23章ありますが、いくつかの章のあとに、著者が独白します。いくつか紹介します。

第1章
 あと10年しか生きられないとしたら、あなたは何をしますか。
 長いと思い悠然と構えられますか。短いと思い駆け出しますか。
 あと10年しか生きられないと宣告されたのならば、あなたは次の瞬間、何をしますか。

第3章
 楽しいってこういうこと。したいことしてる感覚。誰にも流されない感触。
 単純で笑っちゃう。でも笑うことって大事。笑えることって必須。楽しいって人生の基盤。
 人生楽しんだ者勝ちだもの!

第4章
 誰かと同じじゃイヤダなんていつか言っていたけれど、今はみんなと同じじゃなきゃ不安でたまらない。違うならば強くなりたい。みんなと違う道を堂々と歩ける人になりたい。
 強くなりたい。
 強くなりたい。
 心が固まっちゃうくらい、強くなりたい。

第6章
 死ぬことは怖くなかった。だって何が起きても確実にわたしは死に至る。
 わたしは死ぬ。
 それだけは決まっているんだから、安心して。

第7章
 わたしは何のために生きて、何のために死ぬのだろう。
 どうしてわたしだったんだろう。逃げ道のないここは狭い檻の中みたいだ。どこへ行っても結局壁にぶつかる。
 過去は変えられない。でも未来さえ変えられない。
 死ぬことは怖い。
 でも生きることも怖い。
 人生を選ぶこともできない。

第9章
 好きだよって、時には誰かに言って欲しい。
 それだけで生きている実感が持てる。女の子からでもいいや。
 好きだよ。
 なんていい言葉だろう。
 それだけで優しくなれる。
 わたしも誰かに言おうかな。

第10章
 カズくんとはもう会わない。会わない方がよかった。
 だってわたしは、誰かを好きになったりしない。
 目を閉じるとすぐに浮かぶ。そういうのが今は居心地悪い。工作室の思い出だけでもう何も要らないのに。
 出逢わなければよかった。
 だけどもう、出逢ってしまった。

第12章
 楽しかった1日の終わりに、どうしてわたしは泣くんだろう。
 楽しんだ者勝ちの人生のはずなのに、カズくんといると楽しい後は必ずつらい。楽しい分だけつらい。
 つらいのに、もう会いたい。
 恋愛感情なんて、一番最初に殺したはずだったのに。
 どうかわたしに、死にたくないと思わせないで。

第15章
 命が恋しくて、時間がいとおしくてたまらない。
 愛する人と別れることが死だと思った。
 けれど、いとおしいと思えた自分と別れることも死なんだよね。こんなことならもっと自分を大切にすればよかった。わたしを一番大切にできるのは、わたししかいないんだから。
 もっと早く、いろんなことに気付けたらよかったな。

第16章
 カズくんが好き。でもそれだけじゃ、終わらない。終わらせることはできるけれど。
 今始まったばかりなのにな。

第17章
 愛してるって、むせ返るほど苦しい。重くて深くて溺れてしまう。
 溺れる時は一人で沈まないと。和人に手を伸ばさないと覚悟を決めないと。
 さあそろそろ。
 死ぬ準備を始めなくては。

第19章
 限界だった。嘘をつくのは疲れた。だからもう眠りたかった。
 それは諦めじゃなくて、走り終えた疲労感。だからとても疲れていたけど、満足はしていたの。
 あとは大好きな人たちにありがとうを告げて、どうかもう、眠らせて。

第20章
 死ぬことだけが安息だったわたしをあなたが生きさせてくれた。
 だからわたしは死ぬことが怖くなったの。
 死んでしまうことが怖い。
 だからこそわたしは、自分が今生きていることを実感できたんだよ。
 和人 − ありがとう

 第21章で、茉莉は亡くなり。第22章、第23章は、葬式シーンなどのエピローグです。

 この本の初稿を、小坂さんがいつ出版者に持ち込んだのかは、よくわかりませんが、出版されたのは、2007年で、29歳の頃ですから、ほぼ、余命10年の頃ですね。

 その後も、小坂さんは、闘病を続け、生き続けました。文庫化の話があり、当初本人が避けていた闘病シーンが加筆されたそうですが、その文庫版の発売を待たずして小坂さんは旅立たれました。ご冥福をお祈りします。

 私達の世代には、死と直面した純愛は、「愛と死をみつめて」です

https://www.honzuki.jp/book/309978/review/279252/

 この本は、現代版の「愛と死をみつめて」で、彼女の心が、より身近にわかる気がします。

 

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