河合隼雄・中沢新一 仏教が好き! (2003)

2018.8.17

 図書館で、河合隼雄さんで検索して、この本を見つけました。

内容もよかったのですが、挿絵が大好きで、古本も入手しました。

中沢新一 (1950年5月28日-) さんについては、ウィキペディアにかなりの分量の解説があります。

人類学者、思想家、宗教学者という肩書ですが、オウム真理教との関わりでも、話題になりました。

 この本で、好き といっている仏教は、現実の仏教ではなく、原仏教で、河合さんと中沢さんの波長が合って、楽しい対談となっています。

 はじめに で、河合さんが

 日本人は世界の中で、特定の宗教を明確なかたちで信じない。

あるいは、宗教に無関心の人の多い特異な国である。

これは別に日本人の宗教性の薄さに結びつくものではなく、

半意識的な宗教心が、日本人をうまく守ってきたとも言えるが、

これからはそのままではすまされないだろう。

そこで、日本の人びとが仏教や宗教について考えてみられるとき、本書が少しでもお役に立つと幸いである。

と語り、あとがき で、中沢さんが

 二十一世紀の日本にもういちど仏教の花が開くためには、歴史の現実がつくり出してきた仏教からいったん離れて、

この「原仏教」の苗木を入手して、それを大地に植えつける必要があるのではないか、と私は思う。

私は、多くの「私たち」と同じように、仏教が好きなのだ。

それが老木となって、目の前でむなしく枯れ果てていくのを看過することなどは断じてできない、というくらい、仏教が好きなのだ。

二十一世紀の空高く、「原仏教」の若木が伸びあがっていく。

この本はそんな奇跡がおこるために、河合先生といっしょに催したささやかな植樹の儀式なのである。

と語ります。

  河合隼雄さんは、2007年に亡くなられますが、中沢さんは、2011年に、明治大学に野生の科学研究所を開所され、

日本文明の潜在能力を目覚めさせ、21世紀に必要とされる「新しい学」の創出をめざしておられます。

 野生の科学とは、周囲の世界を家畜化しようとすすめてきた人類の心にまだ残っている野生の心や、

いまだに野生の状態にある世界の姿をとらえる方法を研究しようとする新しい学問で、

社会人類学者のレヴィ・ストロース が提唱した「野生の思考」を追及するものです。

 

 この本で、中沢さんは、以下のように問題提起しています。少し、文章を編集して引用します。

 まだ、これは直感の域を出ませんけれども、どんな未開社会でもシャーマニズムと野生の思考は共存しているのです。

神話という論理で世界を理解しようという行為と、超越的な領域に触れようとするシャーマニズムは完全に共生していた。

ところが、ある時期になって野生の思考の影響力がぐっと縮小してきて、シャーマニズムが拡大してきます。

どうもこれは国家の問題とも関わっているらしいのですが、シャーマニズムによる覇権の拡大はアジアの古代国家で最初に発達をとげています。

  

 さてこのモンゴル帝国の宗教は何かと考えてみると、これは国家的規模の巨大なシャーマニズムでした。

実際モンゴル帝国が席捲していった地帯では、野生の思考の産物である神話は死に絶え、その代わりに

天の観念が発達して、それと地上とをシャーマンが媒介する国家的規模の宗教が発達しています。

モンゴル人だって昔草原でほかの遊牧や狩猟の民族に囲まれて暮らしているうちは、

野生の思考とシャーマニズムは同居できていたんでしょうが、

何かのはずみでバランスが崩壊してシャーマニズムの極が異常に発達するようになりました。

その辺のことは歴史学もまだ明らかにしていません。

  

 世界を分類したり、秩序づけたりする思考が一方にはあり、

もう一方には秩序を突き崩しながら流動していくものに身をまかせていく忘我のトランス(trance)があり、

その二つはどちらも人間の心に最初からセットしてあったもので、

この二つの間に均衡をつくり出すことが文化の働きであったわけです。

 

 話を戻すと、どうしてレヴィ・ストロースがキリスト教とイスラム教をあまり高く評価しないかは、どうもそのことに関係している。

キリスト教にせよ、イスラム教にせよ、その核心部にどうも忘我(オージー, orgy)の部分が、手付かずのままセットしてあるために、

ときどきその部分が噴出して、倫理性の破壊ということを自分で実行してしまいかねない。

 これに対して仏教は、大帝国が成立してくる時代に、すっかり分裂してしまったシマニズム的なものと野生の思考的なものを、

もう一回結合して、二つを分離させないようにするための宗教としてできあがったんじゃないか。

仏教の瞑想がその二つをつないでいます。

 

 レヴィ・ストロースは、「悲しき熱帯」の中で、「自分が最も共感を持てる宗教は仏教だけだ」と語っています。

 

 また、神話学者のジョーゼフ・キャンベルも「全地球的神話にいちばん近いのは仏教だけだろう」と述べています。

 

 この本では、さらに、仏教における性の戒律、仏教における否定、仏教における幸福、仏教と科学について取り上げ、

二人が大好きな原仏教について語られます。

 

    

ホームページアドレス: http://www.geocities.jp/think_leisurely/

 


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