加藤徹 漢文の素養 誰が日本文化をつくったのか? (2006) 

2020.4.16

 アマゾンのキンドルの4月の月替わりセールに、この本があったので、購入して、一気に読みました。

 著者の加藤さんは、1963年生まれで、東大で、中国文学を学び、京劇にはまり、1年間の中国留学経験があり、

現在は、明治大学の教授ですが、NHKのレベルアップ中国語講座の講師を務めたことがあるなど、多才なお方です。

 明治大学のサイトに、ホームページをお持ちです。

     https://www.isc.meiji.ac.jp/~katotoru/index.html

 この本の目次

第1章 卑弥呼は漢字が書けたのか

第2章 日本漢文の誕生

第3章 日本文明ができるまで

第4章 漢文の黄金時代

第5章 中世の漢詩文

第6章 江戸の漢文ブームと近現代

を見ると明らかなように、古代から現代までの日本における漢文の歴史を網羅した親切で便利な本です。

 

 日本漢語に関する説明の部分を引用します。

 日本漢語については、和製漢語、新漢語など、さまざまな異称がある。

それぞれの意味も、文章の書き手によって、微妙に違う。

本稿では論旨の混乱を避けるために、日本漢語と和製漢語、新漢語の三つの語を、以下のように定義して用いることにしたい。

●和製漢語 「一応」「家来」「尾籠」など、日本人の生活に密着した独特の漢字。

   中国人が読んでもわからない漢語が多い。

●新漢語 「科学」「進化」「経済」「自由」「権利」「民主主義」など、近代西洋の概念や文物を翻訳する過程で日本人が考案した漢語。

   中国や朝鮮にも輸出されたので、中国人が読んでもわかる漢語が多い。

●日本漢語 和製漢語と新漢語の総称

 

 新漢語は、江戸から明治にかけて、日本の学者たちが考案した漢語である。

 清朝末期の中国でも、西洋の文物の漢語訳が案出された。

例えば、telephone(電話)は、「徳律風」、evolution(進化)は、「天演」と訳された。

とろが、清末に大量の中国人留学生が日本に留学したこともあり、中国人が工夫した漢語はすたれてしまい、

中国でも日本人が考案した新漢語がそのまま使われるようになった。

電話は「ディエンホア」、進化は「ジンホア」と、発音こそ中国語であるが、文字は日本語そのままである。

それとともに 「手続」「取消」「場合」といった和語も、外来語として中国語に吸収された

(それぞれの単語の発音は、中国語の漢字音で読まれる)。

 現代中国語の「高級語彙」は、実は、半分以上が日本漢語である。

例えば、中国語で「中華人民共和国憲法規定的権利和義務」

    (中華人民共和国憲法がさだめる権利和と義務)と言うとき、

純粋な中国漢語は「中華」「規定」「的(の)」「和(と)」だけで、

「人民」も「共和国」も「憲法」も「権利」も「義務」も、日本漢語からの借用語である。

日本漢語を使わなければ、今日の中国人は、一刻たりとも文明生活を営めぬ状態になっている。

 中国社会科学院の李兆忠氏は、こう述べている。

「たとえば、『金融』『投資』『抽象』など、現代中国語の中の社会科学に関する語彙の60〜70%は、

日本語から来たものだという統計がある。

 漢字文化圏に属する多くの国家や民族を見回して見ると、漢字をこのように創造的に『すり替え』、

もう一つの漢字王国を樹立し、かつまた中国へ『恩返し』しているのは、日本だけだ。

 (中略)

 こうした角度から見れば、日本語の中国語への『恩返し』の功績を、われわれは決して忘れてはならないのである」

(月刊『人民中国』2003年3月号 「漢字が表す二つの世界」より)

 韓国でも、このように思っている学者は、いないことはないと思いますが、

韓国政府は、反日教育の一環として、韓国語における日本語の要素を、完全に隠そうとしています。

本当に、韓国の政治は、駄目ですね。

 

 しかし、日本が、西洋概念の翻訳のために、新漢語を生産できたのは、明治・大正期だけです。

それ以降は、新漢語に翻訳できず、カタカナ語として使用しています。

 一方、中国では、パソコンを電脳と訳すなど、どんどん新漢語を生産しています。

 

 西洋の概念を、西洋語のまま使うことは、本当は、悪くはないのであって、

例えば、ライフという言葉を、生命とか、生活とか、生涯とか訳してしまうと、もとの言葉の広い意味合いが消えてしまいますし、

マインドとかスピリットという言葉を、下手に「精神」と訳してしまうと、哲学思考の論点がずれてしまう恐れがあります。

 一方で、ギリシヤ語などを援用した化学物質名などは、アルファベットでも長いのに、カタカナにするともっと長くなってしまいます。

 

 今の時代、日本で、勝手に、新漢語を生産するのは、混乱のもとになると思いますので、

中国語=英語の科学技術用語辞典をみながら、日本でも使える新漢語を探すのは、有意義な事かなと思っています。

 

 

     

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