受動態

2019.8.22

 牧野成一さんの「日本語を翻訳するということ」(2018)を読んで、受動態の無い言語が多数存在することを知り、

あらためて、日本語の受動態について考えてみました。

 

(以下で、文頭に〇が付いている文例は、文法的に正しく、×がついている文例は、正しくない文例です。)

 

通常の受動態   直接受身 と呼ばれることもあります

 日本語においても、英語においても、受動態は、、他動詞を使った能動態の文章 SVO であれば、

O+BE動詞+Ved+by+S のように変形して形成することができます。

例 信長は、義元を討った。 ==> 義元は信長に討たれた。

   Nobunaga defeated Yoshimoto.  ==>  Yoshimoto was defeated by Nonunaga.

例 犬が私にかみついた  ==>  私は犬にかみつかれた

   A dog bit me              ==>         I was bitten by a dog.

  

目的語以外のものを主語にした受動態  間接受身と呼ばれることもあります

 英語では、受動態は、目的語を主語にするため、目的語をもたない自動詞の場合などは、受動態にはなりません。

しかし、日本語では、目的語以外のものを主語とした受動態の文章が存在します。

例 牧野(2018)の例1

 〇 スリが僕の財布を盗った。 ==> 〇 僕はスリに財布を盗られた。

  〇 A thief stole my wallet.        ==>      ×  I was stolen my wallet by a thief.

 説明 「スリが僕の財布を盗った。」の通常の受動文は、「僕の財布はスリに盗られた。」です。

    もし、A thief stole me my wallet. という文が成立するのであれば、I was stolen my wallet by a thief.も成立することになります。

例 牧野(2018)の例1

 〇 彼女の猫が死んだ。 ==>  〇 彼女は猫に死なれた。

 〇 Her cat died.            ==>          × She was died by her cat.

例 門番が戸を閉めた   ==>  私は、門番に戸を閉められた

 〇 The gatekeeper closed the door before me.  ==>  × I was closed the door by the gatekeeper.

 

自動詞の受身    受身が成立するものと、不自然に聞こえるものとがあります

自動詞(例えば、逃げる)の示す動作が起きたときに、誰か(何か)が、影響されるとき、

 受動態を使って、誰か(何か)は、逃げられた。と表現します。

 対応する能動文を、明示できる場合と、できない場合があります。

自動詞の例のあとに、対応する他動詞の例を( )付で示します。

自動詞は、他動詞、〜する、を、自らを〜する、とした再帰形とみなすことができます。

 例 逃げる=自らを逃がす

 逃げる   〇 逃げられる   (私は)犯人に逃げられました 受身(passive)

                 この受動文に対応する能動文= 犯人が、私から、逃げた。

                 逃げられる=逃げる事ができる 可能(potential)

(逃がす   〇 逃がされる)

 泣く    〇 泣かれる    赤ん坊に泣かれた。

                 対応する能動文=赤ん坊が、私の前で泣いた。

(泣かす   〇 泣かされる)

 死ぬ    〇 死なれる    彼は、子供に死なれた。

                 対応する能動文=彼の子供が死んだ。

(死なす   ? 死なされる)

 降る    〇 降られる    雨に降られた。

                 対応する能動文=雨が、私に、降った。

(降らす   〇 降らされる)

 変わる   〇 変わられる   

(変わらす  〇 変わらされる)

 居(い)る  〇 居られる    居られてこまる

 要る      要られる

 居(お)る  〇 居られる

 開(あ)く  〇 開(あ)かれる   微妙です ドアが勝手に開かれてこまる  開いてこまる でもOK

(あける   〇 あけられる    ドアはあけられた)

 開(ひら)く 〇 開(ひら)かれる  (彼には)前途が開かれている

                  対応する能動文=前途が彼に開いている。

(ひらく   〇 ひらかれる    ドアが開かれている)

 閉まる   × しまれる     ドアが閉まります

(閉める   〇 閉められる)

 ある    × あられる     大臣であられる と尊敬語として用いられます

 なる    〇 なられる     歩が、と金になられてしまった

                  対応する能動文=歩が、と金になった。

         この受動文は、歩がと金になって、困った という意味合いを、と金になられた が表しています。

 落ちる   × 落ちられる

(落とす   〇 落とされる)

 消える   × 消えられる

(消す    〇 消される)

 止(や)む  × 止(や)まれる

 見える   × 見えられる   自発自動詞  先生が見えられました と尊敬語で用いられます

 聞こえる  × 聞こえられる  自発自動詞

 現れる   × 現れられる  自発自動詞

 売れる   × 売れられる  自発自動詞

 固まる   × 固まられる  自発自動詞

 こわれる  × こわれられる

(こわす   〇 こわされる)

 

考察 逃げる = run away from

 〇 彼女は、彼から逃げた ==> 〇 彼は彼女に逃げられた

 〇 She ran away from him.  ==>  × He was run away from by her.

  彼は、彼女から逃げられた。は、He was able to run away from her. という意味になります。

 

考察  開(ひら)く の場合は、他動詞と自動詞が同じです

 自発自動詞 ドアが開く   The door opens.

 他動詞    本を開く    He opened the book.   本が開かれた   The book is opened by him.

 ですから、ドアを開いた He open the door.  ドアが開かれた The door was opened (by him). も成立します。

 

考察  見える の場合は、、

自発自動詞 富士山が見える  × Mt. Fuji can be seen.   =  〇 We can see Mt. Fuji.

他動詞    富士山を見る He saw Mt. Fuji.   富士山が見られる。 Mt.Fuji was seen by him.

  

 牧野(2018)では、受動態、自発態に続き、可能形について説明されています。

[a] トムは日本語が話せます。

[b] トムは日本語を話せます。

です。[b] は、トムは日本語を話すことができます とおなじで、普通の可能形で、

英語に翻訳すると、どちらも、Tom can speak Japanese. となり、違いを表す事はできません。

牧野さんは、が-可能形 は、自発性の意味をもっているが、意味の違いは英訳できないと説明されます。

 

 が-可能形 については、別の観点からも、説明できると、私は、考えています。

それは、何々は、何々が、何々だ。という、日本語に頻繁に使われる文型です。

象は、鼻が、長い。という文が有名ですが、トムは、英語が、話せる。も、同じです。

難しいことをやさしく話せる という文章は、難しいことがやさしく話せる と言っても同じで、

どちらかというと、後者の方が、好まれて使われます。

 

 象は鼻が長い。という文章は、中国語に、その原型があると考えられています。

 中国語には、助詞がないので、漢字の語順が大切なのですが、

漢字の中には、動詞にも、名詞にもなりうるものがあり、漢字の意味を考えながら、構文を理解する必要がありますので、

ゆっくり考えて、整理してみようと考えています。

 

 今後、翻訳は、人工知能が担当するようになっていくと思いますが、どのように翻訳すべきか、

翻訳例を沢山、人工知能に与えて、ディープラーニングさせる必要があります。

 受動態の文章を、どのように訳すべきかについても、沢山、例を作ることが必要です。

 

2019.8.26

 文型SVOOの文章は、間接目的語を主語にして受動態に変形することができます。

例 He gave me a book.  =  He gave a book to me.    彼は私に本をくれた。

      I was given a book by him.     私は彼から本をもらった。

例 She bought him a card.  =   She bought a card for him.   彼女は彼にカードを買った。

  He was bought a card by her.   彼は彼女にカードを買ってもらった。

 

give型の動詞 

   allot, allow, bring, give, grant, hand, lend, pass, pay, promise, read, recommend, sell, send, show, teach, throw, tell, write

buy型の動詞

  bring, buy, call, choose, cook, do, find, get, leave, make, order, prepare, save, spare, sing

 

SVOOの形式をとれる動詞は、英単語の中でも、ゲルマン固有の古い動詞に限られます。

ノルマン征服後に入ってきたフランス語系の動詞は、間接目的、直接目的の二つの目的語を持つことが出来ません。

例  He presented me with his book.    He presented his book to me.

 

 

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