谷沢永一・渡部昇一 人生後半に読むべき本 (2006) |
2017.3.5
小松英雄さんの本を読んでいたら、この本を引用する箇所がありましたので、その前後を読みたく、図書館から借りてきました。
人生後半の第二の人生に、どういう本を読んだらいいかは、人それぞれで、その人のいろんな出会いの中で決まっていくものと思います。
この本は、谷沢さんと、渡部さんが、代わりばんこに、どういうことを考えて本を読むべきかについて、短く話題提供してくれますので、
新しい出会いに出会うことができれば、幸せな事と思います。
私の場合は、以下の二か所が、大きな出会いとなりました。
小松さんのことについて触れたのは、谷沢永一さんの、万葉・古今・新古今、その違い という話題提供のところでした。
141-142頁にかけて、少し、引用します。 引用は。青色の太字で示します。
古今集というのは、よほどそれが成立した時代のことを知らなければ、そのおもしろさがわからない。
いまだに古今集の注釈はダメです。ほとんど読めていません。(中略)
万葉集は素朴に素人がスッと実感で受け取れるけれども、古今集を読むためには、
濁点を用いない仮名文字のみの連綿表記に籠められた工夫、特に第三句の活かし方について勉強しなければならない。
万葉集というのは日本民族の一番根っこにある感性だけれども、それが古今集になると、
上流階級の非常に教養の高い、全部昔の歌を覚えてるような人たちの間でないとおもしろくない。
これはもうはっきりいっておきますが、古今集はいまだに読めていない。たとえば、
「奥山にもみぢふみわけなく鹿の声聞くときぞ秋はかなしき」 これを、いま出ている注釈書はまったく読めていません。
「もみぢふみわけ」るのは歌人なのか鹿なのか、ということで何百年も揉めて来たわけです。
これは二つの歌を合体させたと考えればいい。
「もみぢふみわけ」て「異性を求めてないている鹿の声」と、
「その鹿の声を聞きながらまた人生の秋を考える人」というように、
この二つの意味を合わせて両方を同時に感じとれるように作ってある。(中略)
筑波大学の名誉教授である小松英雄さんが初めてこのような解釈を提唱していますが、古今学者は全員黙殺。
つまり、小松さんの意見を容れてしまえば、いま出ている古今集の注釈書は用をなさなくなってしまう。
この後、146-147頁に、学会がどんな本を無視するかについて、両先生のさらなるやり取りが掲載されています。
ご紹介したいもう一か所は、渡部昇一さんのの、英語を学ぶ心得 59-61頁 という話題提供です。
少し引用します。
意外に明治の頃の人は、夏目漱石でも、森鴎外でも、福沢諭吉でも、上田敏でも、
わりと外国語をちゃんと訳しますが、それは、彼らのボキャブラリーが豊富だったからです。
漢文をやっていたこともあって、英語のべらぼうに多いボキャブラリーに対応するイメージが、
自分が学んできた日本語および漢字で浮かぶのです。ところが今の人たちが英語を読んで
一番面食らうのは、自分たちのボキャブラリーが不足しているからです。(中略)
第二の人生で何か言語を習得しようというのは、あまり高望みしないで、楽しむくらいがいいのでしょう。
英語のやさしい随筆などは一番読みやすいものですから、そんなものを毎日1頁読むなど、
あまり欲を出さないで読む分にはいいのでしょう。訳とつきあわせたっていい。
「ヘンリーライクロフトの私記」などは、訳もでていますし、読んでみれば晩年の気分に合うと思います。(中略)
ただ、私はどうしても語学についてはかなりペシミストです。
外国の文献は、日本で語られていなかった、新しいことを語っていますので、当然のことながら、
新しいボキャブラリー能力が必要です。また、英語は、結論を先に言い、何故かと思わせてから、説明を加えますが、
日本語は、状況説明を先にして、当然の帰結のように、結論を言いますので、そのように文章を書く訓練も、必要です。
私は、このホームページの別のところで、「ヘンリーライクロフトの私記」の対訳を行っていますが、
第2の人生の老人向けというよりも、語学を習得中の若者のために、やっているつもりです。
最後に、渡部さんは、第二の人生に新しく語学を習得しようというのを、あまりお勧めしませんと言っていますが、
それは、私も、賛成です。第二の人生に、ピアノの練習を始めるのも、同じですが、せっかく、訓練して、
そのような技術を鍛えたとしても、その人の死とともに、すべて、消え去ってしまいます。
語学にしても、ピアノにしても、若い時に訓練してこそ、その人の長い人生に役立つことができるのです。
第二の人生は、楽しむことが第一と思いますが、何か、訓練、努力をしたいといのうであれば、
英辞郎とか、ウィキペディアなどの辞書を作るなどのように、経験のある大勢の人によって達成でき、
自分の死後も残るものに参加するというような試みがいいのではないかと思います。
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