池澤夏樹、文学全集を編む (2017) |
2019.9.6
河出書房新社から出版された、世界文学全集 全30巻 (2007.11-2011.3) と、日本文学全集 全30巻 (2014.11- ) は、
池澤夏樹 個人編集とうたわれているのが、特徴です。
河出書房新社は、会社の120周年記念事業として世界文学全集の出版を企画しました。
一斉に定年を迎える団塊の世代向けの企画なのですが、1980年代に一旦終わったと思われる全集ブームだけに、
新規性を産むために、一人編者を考え、池澤さんに白羽の矢を立てました。
池澤さんとしても、それは無理だと何回か断ったのですが、結局、引き受けることになりました。
世界文学全集は、第二次世界大戦以降の二十世紀の文学をなるべく新訳で提供することを基本原則とし、
第一回配本の「オン・ザ・ロード」が話題となり、その後も好評だったことから、
日本文学全集の出版計画が持ち上がりました。
池澤さんは、最初、固辞したのですが、2011年3月の東日本大震災の後、
日本人がの桁外れの災害に戸惑い嘆きながらもよく耐えているのを見て、
こんなに自然災害の多い国で生きて来た自分たち日本人とはどういう人間だったのかを問い直したいと思い、
再度、河出書房新社の若森社長から依頼されたときに、引き受けることにされたそうです。
日本文学全集は、古典を基本とし、明治大正以降の作品は、含まれていません。
池澤夏樹さんによる 日本文学全集 宣言 がありますので、一部、紹介します。
この四つの寄り添った島々に、はるかな昔、大陸や他の島から人が渡ってきた。
彼らは混じり合い、やがて日本語という一つの言葉を用いて生活を営むようになった。
この言葉で神々に祈り、互いに考えを述べ、思いを語り、感情を伝えた。
詩が生まれ、物語が紡がれ、文字を得て紙に書かれて残るようになった。
その堆積が日本文学である。
(中略)
人はいつだって自分が暮らす時代を乱世ないし変革期と見るものだが、今の日本はまちがいなく変革期である。
この国の地理と歴史は国民国家形成に有利に働いたが、世界全体で国民国家というシステムは衰退している。
その時期に日本人とは何者であるかを問うのは意義のあることだろう。
その手がかりはまずもって文学だ。
われわれは哲学よりも科学よりも神学よりも、文学に長けた民であったから。
p.155に、池澤さんが、日本文学全集の構想初期に考えた2013年2月時点のリストが掲載されています。
この時点で、40巻あり、それが30巻に削られました。
削られたものは、日本詞華集、紫式部日記、義経記、日本語名文集、
三遊亭円朝、尾崎紅葉、金子光晴、室生犀星、堀田善衛、須賀敦子 などです。
出版された日本文学全集 全30巻は、以下の通りです。●をつけたものは、新訳です。
01 ●古事記(池澤夏樹)
02 口訳万葉集(折口信夫)、●百人一首(小池昌代)、新々百人一首(丸谷才一)
03 ●竹取物語、●伊勢物語、●堤中納言物語、●土左日記、●更科日記
04 05 06 ●源氏物語(角田光代)
07 ●枕草子(酒井順子)、●方丈記(高橋源一郎)、●徒然草(内田樹)
08 ●日本霊異記、今昔物語、●宇治拾遺物語、●発心集
09 ●平家物語
10 ●能・狂言、●説経節、●曽根崎心中、●女殺油地獄、●菅原伝授手習鑑、●義経千本桜、●仮名手本忠臣蔵
11 ●好色一代男、●雨月物語、他
12 松尾芭蕉●おくのほそ道、与謝蕪村●、小林一茶●、とくとく歌仙
13 樋口一葉●たけくらべ(川上未映子)、夏目漱石 三四郎、森鴎外 青年
14 南方熊楠、柳田國男、折口信夫、宮本常一
15 谷崎潤一郎
16 宮沢賢治、中島敦
17 堀辰雄、福永武彦、中村真一郎
18 大岡昇平
19 石川淳、辻邦生、丸谷才一
20 吉田健一
21 日野啓三、開高健
22 大江健三郎
23 中上健次
24 石牟礼道子
25 須賀敦子
26 27 28 近現代作家集
29 近現代詩歌
30 日本語のために
p.197からp.207に、角田光代 『源氏物語』を訳す というインタビュー記事が掲載されています。
内容は、インターネットでも公開されています。
https://www.bookbang.jp/review/article/537962
角田さんへの、源氏物語を新しく翻訳してくれないかという依頼は、2013年の夏だったそうです。
池澤さんと、角田さんの、2017年9月19日、新宿紀伊国屋ホールでの対談も、インターネットで読むことができます。
千年読み継がれる『源氏物語』とは何か?|角田光代×池澤夏樹対談【第1回】
http://web.kawade.co.jp/bungei/1865/
千年読み継がれる『源氏物語』とは何か?|角田光代×池澤夏樹対談【第2回】
http://web.kawade.co.jp/bungei/1868/
また、2018年6月に、大阪 中之島会館でも、「『源氏物語』を訳すということ」と題した対談が行われました。
https://book.asahi.com/article/11585651
この対談内容の最初の部分を少し、引用します。
対談は、角田さんが自ら訳した第9帖「葵」を朗読することから始まった。
「いいですねえ」と思わずうなった池澤さん。
東日本大震災を経て、なぜ昔の人は災害が多いこの国で暮らし、何を考えていたのか。
「日本人を、鏡に映して見たくなった」と、文学全集を作り始めた理由を語った。
日本人とは何かを知りたくてやる以上、古典から順にたどる必要があり、
その中でも一番大きな仕事が『源氏物語』の訳だったという。
角田さんに依頼した理由は「源氏物語と角田さんの小説の印象が、どこかでつながっている。
そんな勘みたいなものがあった」と説明した。
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