池谷裕二、進化しすぎた脳 (2004)  

2025.11.06

 池谷裕二(いけがやゆうじ)さんは、1970年生まれで、東大大学院薬学系研究科で博士号取得後、

2002.12〜2005年に米国ニューヨークのコロンビア大学に研究員として留学しました。

2002年に出版した糸井重里さんとの共著「海馬/脳は疲れない」がヒットしたことから、

出版元の朝日出版社から「ニューヨークの高校生を相手に脳の講義をしてみてはどうですか」という打診を受け、2004年春に、慶應義塾ニューヨーク学院高等部の8名の中高生(10年生1名、11年生1名、12年生6名)に対し、全4回の脳科学講義が実施され、本書の第一〜四章に収録されました。

 目次充実していて、備忘録になるので、以下に示します。

第一章 人間は脳の力を使いこなせていない
1-01 講義をはじめる前に
1-02 みんなの脳に対するイメージを知りたい
1-03 心と脳の関係を人間はどう考えてきたんだろう
1-04 ネズミをラジコンにしてしまった?
1-05 脳にはできてコンピュータにはできないこと
1-06 脳は表面積を増やすためにシワをつくった
1-07 イルカは本当に頭がいい?
1-08 哺乳類の大脳皮質は6層構造
1-09 脳は場所によって役割が違う
1-10 目で見たものを見えたと感じるためには?
1-11 WHATの回路、HOWの回路
1-12 「いつでも同じ場所に腕を移動させる神経細胞」
1-13 ラジコン・ネズミの<報酬系>
1-14 それでも「自分」なのだろうか?
1-15 念力の科学−ニューラル・プロステティクス
1-16 目に見える形になった意思
1-17 視覚と聴覚のつなぎ替え?
1-18 脳の地図はダイナミックに進化する
1-19 進化しすぎた脳
1-20 運動神経と引き換えに、知能を発達させた
1-21 心はどこにあるのだろうか

第二章 人間は脳の解釈から逃れられない
2-01 「心」とはなんだろう
2-02 意識と無意識の境目にあるのは?
2-03 前頭葉はどうやって心を生んでいるのか
2-04 立体は片目でも感じられる
2-05 なぜ長さが違って見えるのだろう?
2-06 風景がギザギザに見えないわけ
2-07 世界は脳のなかでつくられる
2-08 脳の時間はコマ送り
2-09 「いま」は常に過去
2-10 目ができたから、世界ができた
2-11 視神経は半分だけ交差している
2-12 目が見えなくても「見えている」
2-13 「見る」ことは無意識
2-14 表現を選択できること、それが意識
2-15 「クオリア」は表現を選択できない
2-16 言葉は意識の典型
2-17 表情のパターンは世界共通
2-18 人間は言葉の奴隷
2-19 「ウェルニッケ失語症」
2-20 「ミラー・ニューロン」の驚き
2-21 ミツバチの「8の字ダンス」
2-22 無意識に口にすること
2-23 自由意志と脳の指令
2-24 「悲しいから涙が出る」んじゃない
2-25 「恐怖」の感情がなくなったら
2-26 扁桃体は大脳皮質のコーチ
2-27 脳の構造は先天的か後天的か

第三章 人間はあいまいな記憶しかもてない
3-01 「あいまい」な記憶が役に立つ
3-02 なかなか覚えられない脳
3-03 言葉によって生み出された幽霊
3-04 記憶の「あいまいさ」はどこから生まれる?
3-05 神経細胞に電気が流れる!?
3-0+ 神経細胞は増殖してはいけない
3-07 暗記そのものは生命の目的にはなりえない
3-08 細胞は内側がマイナス、外側がプラス
3-09 神経の信号の実体は「ナトリウムイオンの波」
3-10 神経細胞と神経細胞のすき間
3-11 シナプスが神経伝達物質を次の細胞に放出する
3-12 シナプスこそが脳のあやふさの原因だった
3-13 ナトリウムイオンはアクセル。塩素シオンはブレーキ。
3-14 神経細胞は出口と入口を持っている
3-15 「脳がいかにあいまいであるか」のミクロな理由
3-16 分解したら「わかった」と言えるのだろうか
3-17 全体として秩序が起こること − 自己組織化
3-18 しびれるくらい美しいメカニズム − 「ヘブの法則」
3-19 ミクロガマクロを決定する
3-20 神経の活動はランダムではない

第四章 人間は進化のプロセスを進化させる
4-01 神経細胞の結びつきを決めるプログラム
4-02 ウサギのように跳ねるネズミ
4-03 情報のループを描く脳 − 反回性回路
4-04 脳の情報処理には上限がある − 100ステップ問題
4-05 神経に直接効く薬
4-06 薬は「科学のツール」だった
4-07 アルツハイマー病は神経の病気
4-08 老人班に猛毒βアミロイドを発見
4-09 βアミロイドはどこから生まれる?
4-10 プリセリニンがβアミロイドを生みだしている
4-11 βアミロイドがシナプスに攻撃をしかけている?
4-12 神経伝達物質を回収して伝達の効率を悪くする
4-13 アルツハイマー病の治療法を見つけたい
4-14 毒をもって毒を制す
4-15 アセチルコリンを壊すハサミを抑制する
4-16 「裁きの豆」
4-17 人間は「体」ではなく「環境」を進化させている
4-18 改造人間
4-19 いままでの講義をまとめてみよう
4-20-ヒトの脳は<柔軟性>を生むために発達した
4-21 ドリアンや納豆を最初に食べた人間はすばらしい
4-22 人間の脳がそんな簡単にわかってたまるか

1-19は、本書のタイトルとなった「進化しすぎた脳」をとりあげていますので、少し解説します。
●1-19 進化しすぎた脳 
人間の脳は「宝の持ち腐れ」。環境に適応する以上に進化してしまっていて、うまく使いこなされていない。
だってしょうがない、指がたまたま10本しかなかったんだもの。でも指が20本あったら、それに対応した脳の変化が起こって、自在に操れたと思うよ。(中略) 6層構造の脳の潜在的な能力はものすごいから。

おわりに」で、著者は、こう語っています。

講義は、池谷裕二という今後も成長を求め続ける人間による脳科学感の、現時点での足跡です。ここには現在の私の姿勢が投影されています。そして、私自身が高校生の頃にこんな一連の講義を受けていたら、きっと人生が変わっていたのではないかと思うくらいの内容と密度だったと、自分では自負しています。 

 

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