現代に生き残った文語体 |
2015.12.22
文語は書き言葉(written language)、口語は話し言葉(spoken language)と定義されています。
わかった気にはなるのですが、実際に、文語と口語がどう違うかを考えると、そんなに簡単ではありません。
文語体・口語体という言葉もあります。書き言葉である文語は、文語体で書くこともできるし、口語体で書くこともできます。
また、文語文・口語文という言葉もあります。文語文は、文語体で書いた文、口語文は、口語体で書いた文という意味です。
ところが、日本語の場合、文語は、単に書き言葉というだけでなく、
昔の書き言葉、すなわち古文、という意味合いを持っているので、また違った様相を呈します。
古文とよばれている文体は、「です・ます」を多用する現代の書き言葉・話し言葉にはない格調をもっているからです。
その格調の高さゆえに、現代語に生き残っている文語が、沢山あるのです。
古文は、方言の中にもたくさん生き残っています。
方言は、現代語の言い回しでは表しきれない感情の伝達力をもっています。
しかし、方言は、話し言葉なので、イントネーションなどの話し方も重要な要素です。
そこを間違えると、気持ちの悪いものになってしまうので、同じ環境の中で育った地元の人たちとの間で使われるものです。
文語体は、書き言葉なので、話し方の問題はありません。読み手が読むことにより、感情が伝わります。
方言のもつ表現力を、文語体で表すこともできるということです。
以下に、現代語のなかに生き残った文語体を教材に、文語体の美しさを味わいたいと思います。
来たる
現代語の動詞「来る」の古語は「来」(く)です。
漢文訓読体で使われる「来たる」は、「来」+助動詞「たり」ではなく、来+至る(到る) の「きいたる」が
変化した「きたる」と考えることができ、やってくるという意味になります。
しかし、動作が完了し、結果が継続しているという意味の助動詞「たり」と、動詞の「至る」とは、
語源的に関連しているのではないかと私は密かに思っています。
「来る総会にて」は、(近い将来に)やってくる総会で、という意味ですが、
(今度)やってきた総会においては、とも解釈できます。
日本語の過去や完了形は、英文法で習う時制の一致とは、違う使い方をされます。
「明日、お会いしたときに、お渡しします。」を、そのまま英語に
When I met you tomorrow, I will hand it over to you. と訳すと、
間違いになります。
英語では、話者は、常に同じ時点にいますが、日本語では、話者は現場レポーターのように、時空を移動します。
「お会いしたとき」と話しているときは、話者は、将来の「お会いした」後の時点に移動していて、お渡ししようとしています。
従って、「来る総会にて」と話したときに、話者は、総会の開会した時点にいるので、「きたる」という言葉になると考えられるわけです。
「来たれり」とすると、明確に、完了形になります。これは、「きたる」の已然形「きたれ」れ完了の助動詞「り」です。
「朋在り、遠方より来る」 友がいます。遠方から来ます(来ました)。
この「来る」も、来ましたと過去形・完了形で訳すほうが、すわりがいいと思います。
来るべき これから来るはずの
去る
「去る総会にて」の去るは、動詞「去る」の連体形で、過ぎ去った、先日終了した、という意味ですが、
去ったと完了の意味を正確に出したければ、「去れり」の連体形の「去れる」、もしくは「去りたり」の連体形「去りたる」と
すべきなのでしょうが、通常は「去る」が用いられます。
現代語の文法では、連体詞として分類されています。
然る (さる、しかる)
「さるところに」、「さるお方」は、あるところに、あるお方とほぼ同じ意味ですが、
この「さる」は、動詞「然り(さり、しかり)」の連体形です。
現代では動詞は、uで終わり、iで終わるものはありませんが、「さり」は、「さ+有り」が変化したものです。
古語の「有り」は、現代では「有る」なので、さるは、「さ+ある」と考えてもいいのですが、
現代では、「さる」や「或る(ある)」は、連体詞という名前で分類されています。
然り (しかり)
そうですという意味の「然り」は、最近まで使われていたので、現代でも、通用します。
「しかるに」や「しかるべき」などの派生語も、現代でも使われますが、
「しかるを」「しかれども」「しかれば」等の派生語は、かなり古臭く感じられます。
然るべき
叱られて、しかるべきだ。然るべき措置
あくる 夜や年が明けて次の
あくる日 翌日
あしからず よろしく
悪しき 悪い 悪しき前例
あらずもがな ないほうがいい
あらばこそ あるどころではない、あるものか
あらまほしい あってほしい、理想的な
あられる いる、あるの尊敬語。 専門家であられる
ありき
「初めに結論ありき」 最初から結論があった
「初めに言葉ありき」 最初に言葉があった 聖書ヨハネ福音書の冒頭
古語辞典をみると、「き」は、過去に自分が体験した、もしくは、過去に確実に存在したことを示します。
ありきたり 在り来たり 「ありきたりな言動」は、普通の珍しくない言動 という意味です。
ありし
「ありし日の」の「し」は、過去の助動詞「き」の連体形なので、生きておられた頃の という意味となり、
亡くなったかたのことを話すときに、今でも使います。
あるべき あるはずの、そうあるのが当然の
あるまじき あってはならない、
あしからず よろしく、悪くとらないでください
いかに 如何に どんなふうに いかにあるべきか、いかに努力しても
いかん 如何ん 試合の結果やいかん、情勢いかんによって
いかん いけない、駄目 これは、いかないの意味のいかん から来たのでは
いかさま 如何様 にせ、ごまかし
いかよう 如何様 如何様にも致します
よかれ よくあってくれ よかれと思って
よかれあしかれ よかろうと悪かろうと
減らず口 負け惜しみで言う憎まれ口
なせばなる やれば出来る
時すでに遅し 時はすでに遅い
為すすべ する方法、打つ手、行える手立て なすすべがない
為ん術 (せんすべ) なすべき手段
命短し恋せよ乙女 命は短い、恋しなさい乙女よ。
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