深水黎一郎 最後のトリック (2014) |
2022.12.09
読者が犯人になるというミステリー小説です。読者のあなたは必ず「犯人は自分だ」と思うはず?!ということなのですが、はたして、あなたは、どう思いますか?
書評を、本が好き! に投稿したのですが、
『最後のトリック』の感想、レビュー(ゆっくり考えるさんの書評)【本が好き!】 (honzuki.jp)
こちらにも、書くことにします。
「ビブリオバトル」で検索して、YouTubeの
最後のトリック/全国高等学校ビブリオバトル決勝大会!
を見つけて、視聴しました。
2019年のマイナビ第5回全国高等学校ビブリオバトルの決勝大会で、遠藤駿介さんがこの本をプレゼンして、チャンプ本にすることに成功しました。そこで、私も、遅まきながら、この本を読みました。
「読者が犯人」になるとうトリックなのですが、罪は殺人なので、読者は殺人犯になるというショッキングなお話です。さて、私は、遠藤駿介さんのように単純に殺人犯になってしまっていいのでしょうか。
正直、私は、殺人犯にはなれませんでした。この本を私が読むと、誰かが亡くなるというのであれば、私は殺人犯になったかもしれないと思うかもしれませんが、そのようなことは起こりません。起こったら大変です。
この本は、「現実と同時進行する小説」です。より正確に言うと、現実に進行している殺人事件を新聞連載で発表している小説なのです。読者とは、この新聞小説を読んでいる読者で、この新聞小説を読んでいるときに、事件が起こります。
あなたは、この新聞連載の小説をその当時に読んでいる読者であると思って読んで、殺人犯になってみてください。
以下は、ネタばれ内容ですので、本を読むつもりになった人は、読んでからにしてください。
この新聞小説には、もう一つ、しかけがあります。
新聞小説は、以下のように始まります。
その日私は、仕事場で呻吟苦心していた。
この本の語り手である「私」は、深水黎一郎(ふかみ れいいちろう)さん本人です。ある日,香坂誠一という人から手紙が届きます。「読者が犯人」になるミステリーのトリックを思いついたので買ってくれという内容です。
その後、香坂誠一から何通かの手紙を受け取るのですが、「私」は、香坂誠一とは、面識がないという立場を通しています。しかし、深水と香坂は、実際に会ったことがあることが、捜査にあたった警察から指摘されます。二人は、このトリックを実行するにあたって、事前に打ち合わせていたというしかけがあったのです。
このしかけに関して、著者は以下のように弁明しています。
その過程で私は誠一との関係やその正体を隠蔽したが、考えてみて欲しい。もしも私が、これは私の親友の文章ですが、みなさんに是非読んでもらいたいものなのですと言ってあの手紙や覚書を掲げたとしたら、果たしてあなたはちゃんとあの文章を読んだだろうか。香坂誠一が謎に満ちた人物だったからこそ、あなたはあの手紙や覚書を、興味を持って読んでくれたのではないだろうか。あなたが犯人になるためには、斜め読みや拾い読みでは駄目なのだ。
私は、この本を読んで、殺人犯にはなれませんでした。この本は、現実に進行している殺人事件を新聞連載で発表している小説です。読者とは、この新聞小説を読んでいる読者で、この新聞小説を読んでいるときに、事件が起こるのであって、あなたは、この新聞連載の小説をその当時に読んでいる読者であると思って読んでくださいと言いました。
深水さんは、私のこのような意見を、すでに想定されていて、345頁でこう言います。
あるいはあなたは、これは既に終わった話で、自分は犯人ではないと言うかもしれない。自分は製本された本を読んでいるのであり、新聞の読者ではないと主張するかも知れない。
だが誠一の持つ感応能力は、あなたの想像をはるかに超えたものである。もし誠一が、未来のあなたの読書を感知していたとしたら・未来のあなたが発する思念を、その鋭いESPの能力で、あらかじめ感じとっていたとしたら?現在のみならず未来の不特定多数の読者に『読まれる』恐怖が、誠一の息の根を止めたとしたら?まるで強靭なラクダの背骨を、最後に乗せた一藁が折れるように、本当にあなたは、自分は犯人ではないと言い切ることができるだろうか?
香坂誠一は、内側から鍵をかけたビジネスホテルの一室で、死んでいるところを発見されました。死因は心筋梗塞だったので、事件性の認められない自然死として扱われました。犯罪ではなくなったのですが、誠一が死んだのは、読者がいたからです。
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