江川達也 源氏物語 第壱巻 桐壺 (2001)

2018.6.13

 6月5日の、NHK教育テレビのデザイントークスは、漫画家の江川達也さんをゲストにして、マンガをテーマにしていましたが、

その中で、江川さんが、源氏物語のマンガを描いていて、すべての原文をこだわりをもって訳したと語っていましたので、

早速、この本を中古で、買い求めました。

 確かに、マンガの各コマの中に、原文が手書きで少しずつ書き込まれ、対応する翻訳が、活字で表示されています。

御丁寧にも、欄外には、重要単語と、その訳が示されているので、辞書を引くのが面倒くさい人に福音です。

 

 巻末に大塚ひかりさんとの対談が載っています。翻訳について書かれた部分を、少し紹介します。

大塚 このマンガの最初のほうでしたか、光源氏の紹介の箇所を訳されていますけど、

   今までにない、すごくステキな訳ですよね。

江川 あれは「ありがたくめづらしき」って同じ意味の言葉が2つ続いているじゃないですか。

   「ありがたく」は珍しいという意味で、「めづらしき」も珍しいですよね。

   そうすると「珍しくて珍しい」という言葉でしかないんじゃないかと思って。

大塚 「この世に存在しない、"愛"そのもののよう」と訳されていましたよね。

江川 そうそう。

大塚 直訳のようなんだけど、江川さんの訳って「いと珍しき」なら「珍しき」の語源まで戻るような感じで訳されていて、

   それで私なんかホロっと来ちゃうんですけど。

江川 ありがとうございます。(笑)   ここは訳すのすごく悩んだ。というのも自分も物書きじゃないですか。

   自分の漫画のなかでホントに悩んで書いて「コレだ!」という言葉は、ほかの言葉では置き換えられないんですよ。

   それは紫式部も同じだと思うし、僕にはまだ絵があるからいいけど、紫式部は言葉だけで

   その場面のフィーリングを伝えようとするから、相当言葉を吟味したと思うんです。

   だから原文の翻訳をしていて、何かいい言葉はないかと探しあぐねて

   「ああ、この言葉だ」と思いついてみたら、実は原文そのままの言葉だったりするんですよ。

   それだけ原文は大事なんですよ。

大塚 そうなんですよね、色んな人が現代語訳の「源氏物語」を書いているけど、結局一番いい訳って

   日本古典文学全集みたいな、原文と逐語訳と語注が3段ぐらいになって載っているものが一番いいんですね。

江川 でもあれって、対応する原文と翻訳がページをまたいで載ってたりして、

   いちいちページを前後させて見なければいけないから、見づらいじゃないですか。

   でもこの漫画は、原文と翻訳の照らし合わせが一瞬でできるんですよ。

   原文も一切 はしょり なしで全部を載せてるし。

   しかも辞書を引くのが面倒な人のために、欄外に語注までつけてる。

   そこまで読者に見せた上で、僕は極端な超訳をやってみたりするんですよ。

   読みやすくしたり、可笑しくしてみたり、ギャグにしちゃったりとか。

   それで読者に「原文にそこまで書いてあるのか?」って疑惑を抱かせるんです。

   そう思った読者は訳にも挑戦できるようなシステムを一応考えたんですね。

   やっぱり読者をそういう方向にもって行くのが一番大事なんじゃないかと思って。

大塚 ああ、だからあんなにシッツコイぐらい、ホント、うっとうしいほど原文を載せてるんですね。

江川 うっとーしい・・・・・、ですか?

  

 この対談は、2001年9月6日に収録されました。

 

 江川さんの、このマンガ本の特徴は、性描写が、露骨なことです。

 単行本の帯のキャッチコピーは、

●受験生の皆さん! 勉強スイスイおまけにH!

●社会人の皆さん! 教養・エロスが一挙両得!

●シニアの皆さん! これを読まずに往けませぬ!

です。

 

 江川さんの漫画本は、集英社から月2回刊行される漫画雑誌MANGAオールマンに、2001年から連載が始まりました。

単行本として、第1巻 桐壺が 2001年10月に刊行されましたが、巻末の対談で、大塚さんから

ところで江川さん、完結はいつごろですか?」と質問されて、

「休みなしの月2回刊行で、26年後ですかねー。」と、答えていました。

 MANGAオールマンが2002年に休刊後は、月刊誌のウルトラジャンプに移籍しましたが、連載は途中で中断しています。

単行本としては、第2巻 帚木が、2002年10月、第3巻 空蝉が、2003年5月、第4巻 夕顔が、2003年9月、

第5巻 若紫が、2004年3月、第6巻 末摘花が、2004年9月、第7巻 紅葉賀が、2005年3月に刊行され、

それが最終巻となっています。

 

 大塚ひかりさんが、源氏物語の全訳を、ちくま文庫で発表されたのは、2008年11月から2010年1月にかけてです。

 この対談の時に、翻訳はどういう状況にあったのでしょうね。

 

 私も、桐壺の巻の翻訳はすでに終えましたが、江川さんの本と、大塚さんの本を読み返しながら、翻訳を少しずつ改良しています。

第一巻の改良を終えたときに、更新履歴を、更新したいと思います。

 

    

ホームページアドレス: http://www.geocities.jp/think_leisurely/

 


自分のホームページを作成しようと思っていますか?
Yahoo!ジオシティーズに参加