有本香 「小池劇場」の真実 (2017)

2024.03.18

 2016年7月31日の東京都知事選挙で、小池百合子 (1952年7月生まれ、71歳) さんが、2位以下の候補を大きく引き離す291万票を獲得して、女性初の東京都知事に就任し、

その直後の8月31日に、「土壌汚染対策に不安が残る」として、議会に諮ることなく、独断で延期を宣言したことで、築地市場の豊洲移転に大混乱が起きたのですが、

その混乱の最中の、2017年6月上旬に、ジャーナリストの有本香さんが、混乱を引き起こした小池知事を糾弾する『「小池劇場」が日本を滅ぼす』という本を発表しました。

単行本版からわずか5ヶ月で文庫本版が出版されましたが、そのあとがきに文庫化の理由が、こう説明されています。

 この5ヶ月で、日本の政局は大きく変転した。わずか5ヵ月の間に、小池百合子氏は圧勝し、そして惨敗したのだ。

 7月の東京都議会議員選挙での「都民ファーストの会」の圧勝と、10月の衆議院選挙での「希望の党」の惨敗。夏から秋に起きたこの2つのドラマは、まさに本書で予告したとおり、マスメディアの寵愛を一身に受けてきたヒロイン・小池百合子が、その蜜月のピークから一気に奈落の底へ突き落とされた、つまり小池とメディアとの別離の一幕でもあった。

 日本の悪しきテレポリティクス(テレビ政治)、私は敢えてもっとわかりやすく「ワイドショー政治」と呼ぶが、今回の政局でもその力は一定程度作用した。だからこそ今、本書を一人でも多くの人たちに読んでもらい、過去1年と数ヵ月、東京都政を舞台にして起きた最悪のワイドショー政治の真相を知ってもらいたいと考えるのである。

 2017年の5ヵ月間にどんな政変劇が起きたかを復習しますと、小池さんを支える地域政党「都民ファーストの会」が国政進出するという形で、小池さんに近い国会議員が中心となり、2017年9月25日に「希望の党」が結成されました。民進党は、希望の党への事実上の合流を決定したのですが、小池さんが、9月29日の記者会見で、フリージャーナリストの横田氏の「前原代表は前日の両院総会で、公認申請すれば排除されないという説明をしたが、知事は安保、改憲で一致しなければ公認しないと言った。前原代表を騙したのか、それとも共謀したのか」という質問しに対し、「排除をされないということはございません。排除いたします」と発言したため、大騒動が起こりました。
 理念や政策が異なるリベラル系議員たちは、10月3日に結成された立憲民主党に入党し、10月22日の衆議院選挙を闘いました。結果は、自民党が、284議席で圧勝し、希望の党は50議席、立憲民主党は55議席という結果に終わったのです。

 有本さんは、文庫版のあとがきで、こう続けます。

 衆議院選挙の直後、新聞、テレビはこぞって小池を叩き始めた。

 ことは1党派の勝敗にとどまらない。小池は、「安倍自民に対抗する野党共闘を潰(つい)えさせた戦犯」のように扱われた。
 具体的には、小池のいわゆる「排除」発言が有権者にキツい印象を与えた、つまりこの排除宣言が「敗因」であったと盛んに解説していた。

 まったく、ちゃんちゃらおかしい話である。

 そもそも政党とは、志や政策を一致させる者の集団だ。考えの異なる者を「排除」するなどアタリマエのことではないか。この点については小池が正しい。

 ましてや、小池が選別の基準とした安全保障法制や憲法は国政の最重要命題である。この分野で考えの一致しない集団など、ただの烏合の衆でしかない。民進党が求心力を失ったのもまさにこの点にあったにもかかわらず、メディアはこの正論を覆い隠す。

 本当のところ、敗因は「排除」発言そのものではけっしてなく、その発言場面だけをテレビが切り取って、何度も何度も繰り返し流し、「小池はキツイ女」という印象をつくり上げ、視聴者に植え付けたことにある。

 テレビと懇(ねんご)ろになって自らの印象を振りまいてきた小池が、逆の印象操作に負けたのだ。しかし驚いたことに小池は、テレビの横暴に対し一切の反論もなく膝を屈した。メディア側のつくり上げた「敗因」を受け入れ、「私の物言いがキツく聞こえたことで不快な印象を与えた」と敗戦の弁を語った。

 メディアの用意した敗因のシナリオに乗ることで、小池は自身へのキズが致命的なものとなることを避け、つぎの機会をうかがうつもりだろう。だが、その前に、東京都政を一体どうするつもりなのか?

 希望の党は、2018年5月7日に、国民党と新・希望の党に分かれ、即日、国民党は民主党と合併して、国民民主党が誕生しました。

 その後、小池さんは、都知事としての職務に専念しました。

 豊洲移転問題は、結局、2018年7月31日、土壌汚染対策の追加工事が完了し、「将来リスクを踏まえた安全性が確保された」として、小池都知事により豊洲市場の安全宣言が出され、2018年9月13日に開場記念式典が行われることで終局しました。

 2020年7月5日に行われた東京都知事選挙で、2012年東京都知事選挙での猪瀬直樹さんの433万票に次ぐ、都知事選史上2番目の366万1371票で東京都知事に再選しました。

 さて、今年、2024年、は、東京都知事選挙の年です。6月20日公示、7月7日投開票です。小池さんの3選目への挑戦が予想されていたのですが、4月16日告示、4月28日投開票の東京15区補欠選挙に出馬して、衆議院議員への転身を図る諮るのではないかといううわさもあります。

 これから、小池さんがニュースに頻繁に登場するであろうと予想して、この本を読み返しました。有本さんは、かなり手厳しく、小池さんの都知事としての姿勢を批判しておられます。

 目次を、以下に示します。

はじめに − ないない尽くしの小池ファースト劇場

第1章 小池劇場の始まり
 小池劇場の被害者による悲惨な「声明」
 市場を弄(もてあそ)ぶ小池都政を糾弾する内部告発も
 ビジョンなく、後ろ向きな3つの公約
 地方の「二元代表制」に無知なのか
 利権追及に白旗をあげた答弁
 ヒロイン誕生と敵役の登場
 元知事、その前の知事。私怨渦巻く人間関係
 小池劇場の本当の始まり「盛り土がない」
 「地下空間」は謎ではなく、あって当たり前
 豊洲市場の安全は都が確認済み

第2章 石原慎太郎という敵
 84歳、病身の石原に容赦ない者たち
 石原慎太郎に会いに行く
 石原家が受けていたメディアからの人権侵害
 石原個人に賠償させるという異常
 石原は「話せばわかる」と楽観視していた
 行政が個人の「記憶」に頼るという嘘
 風向きを変える力があった石原の言葉
 会見から1週間後の赦しがたい「免罪符」
 百条委員会という人民裁判
 民進党、公明党の欺瞞

第3章 メディアが共犯者
 メディアが広めた豊洲のウソを正す
 マスメディアが消す舛添という存在
 テレビは放送法に違反しているのではないか
 豊洲市場の内部を取材してみた
 テレビの「選挙報道」は公平か?
 長期間、自身のキャラだけで闘い続ける無理
 女性誌の罪、石原慎太郎のミス
 赤旗までもが評価を変えた

第4章 小池百合子という政治家
 10ヵ月間でやったことは「分断」
 皆の気持ちを一つにした石原、再び分断した小池
 日本の地方自治の「二元代表」システムを壊す?
 右手に共産党、左手に隠れ民進党
 東京五輪のプレプレ大会が開催できなくなる
 なぜ、自民党は小池を推さなかったのか
 「闘え」の指示がでた
 地方議会・議員は諸悪の根源なのか
 都知事の独裁を許していいのか
 小池の見習うべき先輩は石原という皮肉
 都議会自民党の反転攻勢
 議会は「ドン」によって牛耳られているのか?
 都議会議員選挙が「党」の闘いになった

第5章 築地市場の不都合な真実
 築地ブランドとは何か?
 アスベスト、年400件を超える交通事故
 築地市場の土や地下水は安全なのか
 「食の安全」にかかわるもう一つの大事な事柄
 「東京都は業者の声に耳を傾けるべき」なのか
 外界と隔絶された「ムラ」ならではの「築地ルール」
 反対派の頭目が廃業業者の鑑札を買い漁る不思議

第6章 東京を取り戻せ
 ニュースにならないことをニュースにする人
 またもや「独断」したルール無視の知事
 築地市場を閉場するという「誠意」
 あらためて小池劇場の要因を考えてみる
 悪しき側近政治の成れの果て
 「東京を金融特区に」という新たなアドバルーン
 あらためて小池劇場の損害を考えてみる
あとがき
文庫版あとがき

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