安倍晋三回顧録 (2023) 

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2023.04.01 

 安倍さんの回顧録が出版されました。3月のベストセラーです。新本を購入しました。

読売新聞の橋本五郎さんが、安倍さんと相談して、自民党総裁として3期目の任期を全うした2021年9月以降に

インタビューして回顧録を作成する約束をしていたのですが、

安倍さんは、2020年8月28日に突然引退され、橋本さんは計画を諦めていました。

しかし、菅内閣が発足した後、安倍さんのほうから、インタビュー開始の申し入れがあり、

2020年10月から2021年10月の間に18回、1回2時間のインタビューを合計36時間行いました。

編集がほぼ完成した2022年1月に、安倍さんから、出版はしばらく待って欲しいと申し入れがありました。

政治への復帰の動きがあり、今は出版の時期ではないと判断されたためと思われます。

しかし、2022年7月8日に、安倍さんは、暗殺されてしまいました。

橋本さんたちは、昭恵夫人に相談し、出版を快諾していただくことになりました。

安倍さんを失ったことは、私たちにとっての莫大な損失ですが、この回顧録は残り、

そして、安倍さんが思っていたよりもずっと早く、この世に出ることになりました。

 この本には、安倍さんの肉声が、沢山、記録されています。私たちに遺された宝だと思います。

 

 この本を読んで、一番、印象的だったのは、安倍さんが戦った最大で、最強の相手は、

財務省だったことです。

 93頁の「日銀と財務省の誤りを確信する」という節で、

民主党政権をどう見ていましたか?と、質問されました。

 当時、第一次安倍内閣を退陣して、謹慎中の安倍さんの答えを、引用します。

 民主党政権の間違いは数多いが、決定的なのは、東日本大震災後の増税だと思います。

震災のダメージがあるのに、増税するというのは、明らかに間違っている。(中略)

 そういう思いから、浜田宏一エール大名誉教授、本田悦朗静岡県立大教授、高橋洋一嘉悦大教授、岩田規久男学習院大教授といった経済の専門家に会って何度も議論しました。また、第一次内閣で経済産業副大臣だった山本幸三氏にデフレ脱却の勉強会の会長を頼まれて、勉強会を発足させました。 
 そうした中で、日銀の金融政策や財務省の増税路線が間違っていると確信していく。

 しかし、民主党政権は、2012年8月10日に、消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げ、社会保障の給付と財政健全化を両立を図るという消費増税法案を成立させました。この法案は、民主、自民、公明の3党で合意した法案でした。

民主、自民、公明の3党で合意した社会保障と税の一体化には、反対だったのですか? と問われ、(94頁)
安倍さんは

 一体改革には慎重でした。デフレ下に加え、震災の影響を受けている時に消費税を上げるべきではない。
一体改革は、税金を上げて社会保障に回すのではなく、むしろ借金の返済に充てるのが狙いでした。
(中略)
 社会保障と税の一体改革は、財務省が描いたものです。当時は、永田町が財務省一色でしたね。
財務省の力は大したものですよ。
 時の政権に、核となる政策がないと、財務省が近づいてきて、政権もどっぷりと頼ってします。
菅直人首相は、消費増税をして景気をよくする、といった訳の分からない論理を展開しました。
民主党政権は、あえて痛みを伴う政策を主張することが、格好いいと酔いしれていた。
財務官僚の注射がそれだけ効いていたということです。

 ところが、2012年12月の総選挙で、民主党が惨敗し、自民党が圧勝し、12月26日に第二次安倍政権が誕生しました。

安倍首相は、2013年10月1日に、消費税を予定通り5%から8%に引き上げることを決定し、2014年4月1日に実施されました。

増税見送りも考えたはずですが。 (120頁) と問われ、

 実は、8%への引き上げを覆すのは難しいと思っていました。
閣内には、民主、自民、公明の3党合意を決めた当時の総裁、谷垣法相と、幹事長だった石原伸晃環境相がいる。
当事者が閣内にいる中では、既定路線でやるしかないと。
財務省はこの時、「いったん景気は下がってもすぐに回復する。谷が深ければ、それだけ戻ります」と説明していたのです。
だけど、14年4〜6月期のGDPは年率で6.8%減となって、なかなか戻らなかった。
財務省不信は一層強まりましたね。

 安倍首相は、2014年11月18日に記者会見し、衆議院解散と、2015年10月からの消費税率10%への引き上の1年半先送りをセットで表明し、11月21日に解散しました。

増税延期という国民受けしそうな政策変更と、解散を同時にしたのは、ある意味では狡猾な手法と言えます。(148頁) と問われ、

 増税を延期するためにはどうすればいいか、悩んだのです。
デフレをまだ脱却できていないのに、消費税を上げたら一気に景気が冷え込んでしまう。
だから何とか増税を回避したかった。しかし、予算編成を担う財務省の力は強力です。
彼らは、自分たちの意向に従わない政権を平気で倒しに来ますから。
財務省は外局に、国会議員の脱税などを強制調査することができる国税庁という組織も持っている。
さらに、自民党内にも、野田毅(たけし)税制調査会長を中心にした財政再建派が一定程度いました。
野田さんは講演で、「断固として予定通り(増税を)やらなければいけない」と言っていました。
 増税派を黙らせるためには、解散に打って出るしかないと思ったわけです。
これは奇襲でやらないと、党内の反発を受けるので、今井尚哉秘書官に相談し、秘密裡に段取りを決めたのです。
経済産業省出身の今井さんも財務省の力を相当警戒していました。
二人で綿密に解散と増税見送りの計画を立てました。

 2014年12月14日の総選挙に、自民党は圧勝しました。

 2016年6月1日に、安倍首相は、2017年4月予定の消費税率10%の引き上げを、2019年10月までさらに2年半延期することを発表しました。

 その直後の、9月25日に、衆議院解散表明が行われ、2019年の消費増税時の使途を全世代型社会保障の財源にすると公約しました。

全世代型社会の柱である幼児教育・保育の無償化は、選挙で票にならないとずっと言われてきたため、自民党は慎重でした。政策を転換したのはなぜですか。(271頁) と問われ、

 幼児教育の無償化は、第一次安倍内閣の参院選の選挙公約に盛り込んでいたのです。
民主党が掲げた「子ども手当」に対抗するためにね。
その後、民主党の子ども手当は第二次内閣で児童手当に名称が変わりますが、毎年の大規模な給付なので、とにかく財源が必要なのです。
だから消費税増税分の使途を変更して財源を確保することにしたのです。
増税分の使途変更は、普段ならば財務省や財政健全派の反対でできません。
解散と同時に決めてしまえば、党内の議論を吹っ飛ばせます。
選挙に勝てば、財務省を黙らせることができる。

 最終的に、消費税率は、2019年10月1日に、10%に引き上げられましたが、軽減税率が導入されました。
消費税率の10%への引き上げは、4年間延長されたわけです。

2023.05.03

 月刊Hanadaの 2023年4月号に、『安倍晋三回顧録』の衝撃 という題の、櫻井よしこさんと、橋本五郎さんの対談記事が掲載されました。

 月刊HanadaのKindle版のバックナンバーは、古いものは、99円になるのですが、今日、アマゾンを覗いてみると、

2023年の6月号と5月号は、971円なのに、4月号は、すでに、99円になっているのを発見し、即、購入しました。

 対談に、インタビューの経緯と、方法について、興味深いことが語られていましたので、紹介します。

橋本
 2020年7月10日に、翌年の9月で任期が切れることを念頭に「総理を辞めたら、回顧録を作りましょう」と打診しました。安倍さんは「いいですよ」と仰っていたのですが、1ヵ月半後の8月に持病の悪化で退任表明されたので、これはもう回顧録の話もなくなったかな、と思っていたのです。

 すると辞意表明からほどなくして、安倍さんのほうから「回顧録をやりたい」とお話がありました。

 それで2020年10月から、1回につき2時間で18回、計36時間のインタビューを行いました。準備も万端で、『回顧録』の監修を務めた元国家安全保障局局長北村滋さんが常に取材に同席してくれました。安倍政権の間、北村さんがスクラップしていた300冊にのぼる新聞記事も参考にしつつ、さらに公文書も参考に安倍さん自身が自分の記憶を思い起こす、という万全の体制でした。

 素晴らしい環境下にインタビューが実施されたことは、本当に、有難いと思いました。

 

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